lykoi
こうして 3 月。 あの騒動から 5 ヶ月ほどたった頃、アントーニョの元には祖父からメールが届く。 大好きな大好きな祖父から、しかし内容はエンリケの近況で少しがっかりはするものの、 ――こっちで同じく孤児院にボランティアで来てる 2 歳下の子と仲良くなってな。そ...
結局…それからギルベルトを中心に事情を聞かれ、学校側に多額の寄付をしている祖父のおかげで、警察沙汰は免れることにはなったものの、エンリケは退学処分と相成った。 もちろん他は無罪放免。部活で残っていた生徒達が話を聞いていたというのもあって、多少気まずさは残るだろうが、まあ人の...
「…爺ちゃん…やっぱエンリケが可愛えんやんな。 俺がいくらええ子でおっても、いっぱい褒められる事しても、爺ちゃんにわらいかけても…爺ちゃん、いつでもムスっとしとるエンリケ気にしとるんや。 俺の事は見てくれへん…。」
「……なんで?…なんで俺にだけなんもないん? 神様は不公平や…神様なんて信じられん…。 いつだって欲しいモンはアントーニョやフェリシアーノ、ジジイとか、神様が偏愛しとる奴らに全部与えられるんや…。 1 つでええねん…たった 1 つでええのに、俺にはなんも与えられん…...
(…今夜中にはまとめておかねえとな……) アントーニョのマンションを出て、フランシスと二人きりになったところで、ようやく肩の力を抜くギルベルト。
――やっぱり殺伐とした事やる気かよ…。 と、まあ自分もある程度はそれを狙っていたと言わなくはないが、アントーニョがやる気になってしまった以上、自分が考えていたものよりかなり過激になるであろうそれに、ギルベルトは内心ため息をつく。
暗い室内…。 空き部屋だけあって家具もなく、ガランとしている。 空き部屋であると思わせるため、灯りもつけられず、カーテンのない窓から差し込む月明かりだけが唯一の光源だ。 そんな中でアーサー、ロヴィーノ、フェリシアーノの 3 人は不安と恐怖を抱えたまま、互いに...
「やばいっ!ぜってえに部屋見たのバレたっ!どうすればいい?!」 震えながら半泣きでギルベルトに訴えると、問われるままさっきのエンリケとのやりとりについて答える。
こうして何度か訪れたことのあるマンションの前へ。 自分達より色々な意味ではるかに強い従兄弟がそこに待っていてくれたことに、ロヴィーノは心底ホッとした。
入って右側には洗面所と風呂とトイレがあり、左側にはキッチンとダイニング。 そして正面に2つ続き部屋という作りになっているのは、もう一つの離れと同じなのでロヴィーノも知っている。 一応奥へ行く途中で左右にも人がいないか確認してみたが、どちらにも人の気配はない。
母屋から歩いて 1 分。 いつも閉め切られているカーテンは今日も当たり前に閉まっているので中の様子はわからない。 「エンリケ、飯~」 と、ドアをノックする。
「兄ちゃん、夕飯届けて~」 教会の母屋。 兄弟一緒の八畳間に夫婦の寝室 6 畳間、キッチン、ダイニング、そしてそれだけは信者さんを招いたりもするため広い 20 畳ほどのリビング。 広い敷地のわりに、牧師一家の居住スペースは決して広くはない。 その代わりに...
そんなことを考えているうちに休み時間。 悪友二人と一年の教室へ急げば、アーサーのクラスの後ろのドアにはエンリケの姿。 ギルベルトが前のドアから 「お~い、アーサー」 と、来い来いと手招きをすれば、窓に張り付くようにして立ちすくんでいたアーサーはホッとしたよう...
金曜日の帰りにエンリケにメールを送ったギルベルトだが、そうすると当たり前に向こうにもギルベルトのメルアドはバレる。 嫌がらせメールが来るのは想定の範囲内の事で、2つあるうち、友人や家族用じゃない方、アンケートその他で使っている、いざという時には捨てられる割りとあちこちに...
「…リア充爆発しろ……」 月曜日、やはり二人で登校して授業ギリギリまではアーサーと一年の教室に。 2 年のアントーニョ達のクラスは 1 時間目は自習だったので、せっかく週末の生活を報告してやったわけなのに、やや疲れた様子のギルベルトから返ってきた返事はそれだ。 ...
実際…アーサーは勉強を深く理解しているだけに、教え方も上手く、マンツーマンで教わっているアントーニョはたった 2 日でかなり勉強がわかるようになってきた。 とりあえず追試は余裕でクリアできそうだ。 しかも…アントーニョが勉強している間、家の中で何でも自由にしていて良...
祖父はこのマンションを唯一、生前贈与でいち早くアントーニョにくれていた。 …というか、どうやら資産家らしい祖父は、その資産は三分の 1 は教会を継いだ長男一家が色々気にせず奉仕活動に勤しめるように、三分の1は事業を継いだ次男一家が事業を回せるように、あとの 3 分の1は...
「これはこれは…ずいぶん本格的なこった」 一人通常通り授業を受けた学校帰り、早退したフランシスと待ち合わせた駅前から少し離れたスタバでギルベルトは自分のスマホに送られてきたメールを見て呟いた。
体調の悪いところに慣れない事をさせて疲れさせたはずだ…と主張して、片手をその背に回して身体を支えつつ、アントーニョは自分の手にスプーンを持ってアーサーの小さな口にリゾットを運んでやる。
大急ぎで自分も抜いて、アーサーの下着を手洗いして洗濯機に放り込み、アントーニョはリゾットをレンジで温めて再度寝室へと戻った。 そしてベッドの上でホワンとした表情で放心した状態のアーサーに 「スッキリしたところで飯食おうか~」 と、なるべく何気ない風に声をかけ...