恋人様は駆け込み寺_8章_2

「やばいっ!ぜってえに部屋見たのバレたっ!どうすればいい?!」
震えながら半泣きでギルベルトに訴えると、問われるままさっきのエンリケとのやりとりについて答える。

『まずい…な。これ絶対にエンリケ、トーニョんとこ向かってるぞ。
ちょっとトーニョに変わってくれ』
と言われてロヴィは青ざめた顔でアントーニョに携帯を返した。

「俺や。」
『あのな、ロヴィが遊びにじゃなく部屋見て逃げたってのがバレたから、逃げこむ先なんてお前のとこくらいだって検討はついてるだろうし、たぶんあと数十分もしねえうちにエンリケそっちに行くと思う。
急いで3人どこか隠さねえと…』

「ギルちゃんとことかあかん?」
『俺んとこは目ぇつけられてると思う。あ、ちなみにフランとこもな』

「…ほな、どないしよ…」
『あ、お前んとこのマンション、空いてる部屋ねえ?!』
「ああ、あるで。ちょうど一部屋空いとるわ」

『キーは?』
「もちろんオーナやし持っとるよ」

『じゃ、そこに隠せっ!
気付かれねえとは思うけど、万が一聞かれたらキーは不用心だから銀行の貸し金庫に預けてるとでも言えば完璧だ』
「おん、わかったわ。すぐ支度する」

とりあえず、と、スマホをロヴィーノに預けると、アントーニョはアーサーが自宅から持ち込んだ荷物を急いで大きなバッグにまとめた。
その他、洗面用具もそこに入れる。

食器は新しく買った物は奥にしまい、祖父の代からある食器を前面に。
アーサーが暮らしている痕跡を消し終わると、鍵を掴んでロヴィーノに他の二人に事情を説明するように言い含めた上で、非常階段から1階下の5階にある空き部屋に逃す。

そしてもう一度室内を見回して、念のため換気も行い、一組分だけ出した食器に大鍋に作ったシチューをよそってパンを切った。
これでアーサーが来る前の日常が出来上がりである。

最近ずっと二人だったし一人の食事も寂しいなぁと思いつつ、しかし全く食べてないのも不自然なため一人で手をあわせて食べていると、30分もしないうちにドアのチャイムがなる。

「ほいほ~い」
と、行儀悪くスプーンを口に加えたままドアを開けるアントーニョの目の前には、予想通りエンリケの姿。

「なんなん?いきなり珍しいな」
と、アントーニョが少し身体をずらせて中へと促すと、エンリケは
「ロヴィ、来てるやろ」
と、言うなり、いきなりズカズカと中へと入り込んだ。

「は?何?来てへんで?」
と、知らぬふりでわざと驚いたように言いつつも、ドアの鍵を閉めて後を追えば、エンリケはトイレ、風呂、クロゼットと、人が隠れられそうな場所を確認しながら、リビング、ダイニング、キッチン、寝室と、勝手に歩を進めていく。

「ちょ、自分一体なんなん?!」
と、追いついたアントーニョが文句を言った時には、エンリケはガラっとベランダのドアを開けていた。

ベランダのドアを閉めると、今度はベッドの下を覗き込み、これ以上人が隠れられそうな場所がないと思ったのだろう。

ここでやっとアントーニョを振り返り、
「で?ロヴィはどこや?」
と聞いてくる。

「自分…ほんまなんやの。さっきから知らん言うとるやん。
というか…喧嘩でもしたん?
おっちゃん、おばちゃんが旅行やってのは連絡きたけど…。
ロヴィおらんでもフェリちゃんおったら飯出てくるやろ。
フェリちゃんも一緒に出て行ったなら、しゃあない。
一日くらいうちで飯食う?
明日も食おう思うて多めにシチューつくったさかい、ええで?」
と、呆れたため息をつくアントーニョを前に、エンリケは舌打ちした。

これが本当にアントーニョが無関係だったとしたら、ずいぶん失礼な態度である。

「自分…他にロヴィが行きそうな場所知らん?」
聞かれてアントーニョは少し考えこんで、そして言う。

「…ギルちゃんとこ?あっこの弟がフェリちゃんの仲良しやねん。
ロヴィは…他にこの時間に遊びに行くような友達知らんなぁ…」

「…さよか」
と、エンリケは無感動に答えて寝室を出かけたが、ふとベッド脇にたたんで置いてあった寝間着に目を向けた。

それは初日からアーサーに貸していた寝間着で…ちょうど洗濯をしてしまい忘れていたようである。

「これ…自分のやないやんな?それにしては小さいし…」
と目ざとくチェックするエンリケに内心ぎくりとするが、ここで慌てたら終わりだと、アントーニョは苦笑した。

「ああ、それな。合わせでわかると思うけど女モンやで。友達が置いていってん。
なんや間違って女モンの福袋買ってもうたら入ってて、そいつんち男所帯やからなんや恥ずかしい言うてな。
エンリケ持ってくか?なんやったら女モンの下着とかもあるで?」

と、タンスの奥からそちらは使うこともなくしまわれたままのキャミソールなどを引っ張りだすと、エンリケは少し顔をしかめて
「要らんわ」
と、手にしていたパジャマをベッドに放り出した。

何故パジャマだけ出ていたかという点には気づかないでくれた事に、アントーニョは心底ホッとする。

「で?飯食うてく?」
と、寝室を出るエンリケの後ろ姿に声をかけるが、

「要らん。帰るわ」
と言う返答が返ってきて、とりあえず危機は去ったらしいことに内心胸をなでおろし、
「ほな、気をつけて帰り」
と、アントーニョはエンリケを送り出す。

こうして閉まったドアに鍵をかけると、ほ~っと一息。


その後、窓に走り寄ってエンリケが確かにマンションの建物から出て行くのを確認すると、アントーニョは合鍵を持って3人を隠した空き部屋へと急いだ。




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