暗い室内…。
空き部屋だけあって家具もなく、ガランとしている。
空き部屋であると思わせるため、灯りもつけられず、カーテンのない窓から差し込む月明かりだけが唯一の光源だ。
そんな中でアーサー、ロヴィーノ、フェリシアーノの3人は不安と恐怖を抱えたまま、互いに寄り添うようにうずくまっていた。
沈黙を破ったのは気まずげにうつむくアーサーだった。
自分のせいでエンリケが暴走して、ギルベルトを危険に晒し、アントーニョに迷惑をかけ、その従兄弟二人までもこうして逃走する羽目に陥らせている…。
そう思うといたたまれず謝罪すると、フェリシアーノが上着のポケットからハンカチを取り出して
「君のせいじゃないよ」
と、ソッと涙をこぼすその目元にあて、ロヴィーノは少し怒ったような口調で
「お前が謝ることじゃねえだろ。
むしろあいつは俺らの身内で、身内が迷惑かけてんのこっちなんだから」
と、口を尖らせた。
「…悪い……」
とグスグス鼻を鳴らすアーサーをフェリシアーノとロヴィーノが左右から抱きしめる。
「大丈夫。アントーニョ兄ちゃんが絶対になんとかしてくれるから」
「ギルもああ見えて実は出来る奴だしな。エンリケごときなんてことねえよ」
と、気弱になっているアーサーを左右から慰めながら
「「身内がゴメンな(ネ)」」
とユニゾンで謝る双子。
「とりあえず…自己紹介しとくね」
と、そこで空気を変えるように、フェリシアーノの方がほわっとした笑みを浮かべて言った。
「俺はフェリシアーノ。で、こっちは双子の兄ちゃん、ロヴィーノだよ。
君は…アーティってアントーニョ兄ちゃんが呼んでたけど、俺達もそう呼んでいい?」
人見知りのアーサーですら警戒心を忘れるくらい屈託のない笑み。
ああ、あの明るいアントーニョの従兄弟なんだなぁとシミジミ思う。
ぎゅうっとさらにアーサーを抱きしめながら、
「大丈夫。俺弱いけど、もしエンリケが来たら頑張るからっ。
アーティの手を引いて、頑張って逃げるよっ」
というフェリシアーノの頭を、ロヴィーノがスコ~ンと叩く。
「お前なぁ…そこは守るだろうがっ!逃げてどうするよっ!」
というロヴィーノにフェリシアーノは、え~…と不満気な声を漏らしたあと、それでもきっぱり
「俺弱いもんっ!戦うより一緒に逃げる方が絶対に成功率高いよっ」
と、断言する。
そんな緊張感の若干かける兄弟のやりとりに、アーサーも思わず小さく吹き出した。
「あ、笑った♡
アーティ、笑った方が可愛いよ?」
と、また笑みが戻るフェリシアーノ。
線はずっと細いのだが、このあたりの恥ずかしいセリフを恥ずかしげもなく言うあたりも、アントーニョの従兄弟だ。
「お~ま~え~は~~~!!口説くなっ!」
と、今にも頬ずりしそうな勢いのフェリシアーノをアーサーから引き剥がし、ロヴィーノはジタバタするフェリシアーノを押さえつけながらも、アーサーに言った。
「とにかく、お前が気にすることじゃないっ!お前のせいじゃねえからなっ?
もしエンリケが来たら…俺が引きつけるからその間にこの馬鹿弟と一緒に逃げろ。
これは俺らの身内の不始末だから、本当にお前は悪くねえ」
きっぱりそうやってアーサーを庇ってくれるあたりは、甘い言葉を吐いたり明るいオーラを振りまいたりはしていないが、ロヴィーノもやっぱりアントーニョの従兄弟だ…と、アーサーはまた思う。
初めて会ったのに、本当に初対面の気がしてこない。
「アーティ、メルアド交換しようよ♪」
と、自分の携帯をちらつかせるフェリシアーノにアーサーは荷物の中からメモ帳を出して、
「今携帯はトーニョに預けてるから…」
と、それに自分のメルアドを書いてフェリシアーノに渡す。
「ありがと~。じゃ、これ俺の~♪」
と、フェリシアーノも同じく自分のメルアドをメモ帳に書き、次にロヴィーノにペンを渡すと、ロヴィーノもサラサラと自身のメルアドを書く。
「学校違うけどさ、今回のこれのカタが付いたら、一緒に遊びに行こうね?」
と、人懐こさ全開で言うフェリシアーノにアーサーは頷いた。
思えば友人関係は学校にあがるたび無くしてしまって長続きしなかったので、こうやって新しく友人が出来るのはすごく嬉しい。
その後、アーサーと双子はそれぞれこれまでの経過を報告し合ったが、待機時間が長くなってくると、暖房もつけられない夜の部屋は寒い。
アーサーだけでなくフェリシアーノとロヴィーノも同じことを思っていたらしい。
「まだ終わらねえのか…」
とロヴィーノが両手をこすりあわせれば、
「そうだねぇ。
まあ…アーティの話聞いたら、エンリケもしつこそうだし…粘ってるのかもね」
とフェリシアーノはアーサーの両手を取って、自分とアーサーの手にハ~っと息を吹きかける。
面白い事に、フェリシアーノはアントーニョに似てテンションが高めでスキンシップが過剰気味なのに対し、ロヴィーノは優しいものの少しぶっきらぼうでスキンシップが少なめだ。
双子なのにずいぶんと性格が違うらしい。
そんなことを思いながら二人を観察していたら、フェリシアーノが、良いことを思いついたっ!とばかりに言い出した。
「そうだ、ね、コートの前二人共開けて?」
と、まず自分がボタンを外して前を開けると、
「なんだよ、変態ごっこか?」
と、言うロヴィーノにプクリと膨れて見せて、
「ほら、兄ちゃんもっ!」
と、兄のコートのボタンを外していく。
アーサーもそれに倣ってコートのボタンを外すと、フェリシアーノは二人をグイッと抱き寄せた。
ちょうど三角になるようにくっついて、コートで互いの身体の隙間を埋める。
「ね、こうすると少しは暖かくない?」
少しつらい体制ではあるが、満面の笑顔で同意を求められると否とはいえない。
「そうだな」
と同意するアーサー。
しかしロヴィーノは兄弟だけあって遠慮がないのだろう。
「体制つれえよ」
と文句を述べる。
が、次にポツリと
「ま、アーティを風邪引かせないためには仕方ねえよな」
と一言。
ぷいっとソッポを向くが、耳が赤い。
「そうだね」
と、それに気づいてはいるが、指摘をすればすねられるのはわかっているため、フェリシアーノは小さく笑って同意した。
こうしてさらに数十分。
時間が経つに連れて体制が辛くなってきて、お互いがお互いに持たれるようにしているうちに、誰からともなくうつらうつらし始めた。
ああ…温かいな…。
どこかアントーニョに似ていて、どこか似ていない双子。
なのに、二人ともからアントーニョと同じ太陽の匂いがして、その安心感にアーサーも眠気を誘われた。
0 件のコメント :
コメントを投稿