恋人様は駆け込み寺_8章_4

――ああ、楽園はここにあったんやっ!
空き部屋の鍵を開けて中に入ったアントーニョがまず思ったのがそれだ。

互いが互いにもたれかかるように寄り添って眠る双子の天使に守られた自分の大事なお姫様。
33様に愛らしくて、目にした途端表情が緩む。

驚かさないようにソッと近づいて3人の前に膝をついて、よくよく見ると、アーサーの目には涙の跡。

ああ、可哀想に、怖かったんやなぁ…。
それを一生懸命慰め励ましていたのであろう双子にも心のなかで深く感謝を述べつつ、アントーニョの中で何かの糸がプツンと切れた。

可愛い双子と愛しいアーティ。
自分にとって2大この世で大切な者を傷つける相手は、例え誰であろうと滅すべき敵である。

ふつり…と黒いオーラのようなものがアントーニョを包む。

――この際…手段選んでる場合やないわ…。

そう…徹底的に二度と立ち上がれないくらいには叩き潰さなければならない。
情け容赦は無用である。

――…どうやって潰そうか……

沸々と腹の奥から吹き出る黒い感情。
湧いてくるのはエンリケのように間接的ではなく直接的なものではあるが、破壊衝動であることは間違いない。

祖父が伯父が…そして亡くなった両親が、その他人より若干有り余る力を穏やかな方向に向けるように幼い頃から熱心に教えこんだキリスト教の教えも、自分の手の内の大事な者を害する敵から守るという大義名分を与えてしまえば、あっという間に霧散した。

奇しくも自身が敵と定めた従兄弟とは対極であるようでいて実は同種でもあり、まさに表裏一体のような存在である。

一気に吹き出す殺気に、ヒィ!と悲鳴を上げて飛び起きたのは、ヘタレているようでいても守るべき相手は守らないとと、人一倍危機意識の高い長男、ロヴィーノだ。

殺気で目を覚まし、二人をかばうように自分の後ろに追いやったあとエンリケの姿を探し、それから一気に殺気がなくなったアントーニョに不思議そうな目を向ける。

「…今…エンリケいなかったか?」
と、まだ寝ぼけ眼な目をこすりながら言うのが可愛くて、アントーニョは笑みを浮かべた。

「なん?夢でもみとったん?
あいつはとうに帰ったで。せやから親分迎えに来てん。
とりあえず風邪ひかんうちに家に帰ろか~」

と、ロヴィーノに手を貸して立たせると、アーサーを抱き上げて、ロヴィーノがフェリシアーノを起こすのを待つ。

こうして自宅マンションの部屋に戻ると、3人にベッドを明け渡して、アントーニョはギルベルトとフランシスをマンションまで呼び出した。



「もう一刻の猶予もないわ。」

途中でフランシスと待ち合わせて合流し、アントーニョのマンションのドアベルを押したギルベルトは、ドアを開けて顔を見せたと思ったら開口一番そう言うアントーニョに、内心頭を抱えた。

ロヴィーノから連絡が来た時点で嫌な予感はしたのだ。
アントーニョは昔からこの不器用な年下の従兄弟をひどく可愛がっていた。
それが自分の可愛い可愛い恋人を悩ませている粘着相手と揉めている…。
その時点でアーサーだけでももう限界だったアントーニョの怒髪天を完全に付いてしまったというのは想像に難くない。

「とりあえず…ここにいるのを万が一にでも見られた日にはまずいだろ。
中に入れろ。」
と、促せば、アントーニョは
「一応3人共寝室で寝とるけど、あの子達には殺伐とした話聞かせたないねん。
玄関で話すで。」
と、二人を玄関先にのみ迎え入れてドアを閉めた。


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