――やっぱり殺伐とした事やる気かよ…。
と、まあ自分もある程度はそれを狙っていたと言わなくはないが、アントーニョがやる気になってしまった以上、自分が考えていたものよりかなり過激になるであろうそれに、ギルベルトは内心ため息をつく。
徐々に顔色を失っていくフランシス。
最後にロヴィーノから送られてきたエンリケの離れの写真を見せれば、蒼白な顔でフラフラと立ち上がったフランシスは
「ごめん…奥には行かないからトイレだけ貸して…」
と、廊下の途中にあるドアに駆け込んだ。
ああ、本当に。
あれが普通の反応だ。
これでどす黒い怒りがこみ上げてくる自分達は歪んでいる…。
非常に不本意ながら、ギルベルトは自分がどちらかと言えば、真っ当に美しい世界に生き続けるあちら側より、こみ上げる激情のまま、いかに相手を叩き潰すかを画策するこちら側の…もっと言うなら、歪んだ従兄弟同士の住む薄暗い世界の人間だと実感した。
本当にこの写真が送られてきた時の自分と来たら、これでどれだけ相手にダメージを与えられるだろうか…という事しか思いつきもしなかった。
そんな事を思い、若干自己嫌悪に浸っていると、どうしたことか、普段はKYキングと呼ばれる男が、いきなりポンポンとギルベルトの肩を叩き、
――それはちゃうで?――と言う。
何が?と聞くまでもなく、顔をあげて視線を合わせると、何もかも察したような深い緑の目とぶつかった。
「…たぶん…俺はこっち側の人間やけど、ギルちゃんは違うわ。
動く理由が自分の欲のためやなく他人のためで、そこに罪悪感も嫌悪感も持っとるあたりがな、決定的にちゃうねん。
あいつは自分の縄張りに欲しいモンを引きずり込むために手段選ばん獣で、俺は自分の縄張りに引きずり込んだ大事なモンを取られんために手段選ばん獣や。
どっちも自分の欲のために動いて、欲を満たす事に嫌悪感を感じんどころか、高揚感くらい感じ取る。
ギルちゃんはまだ大丈夫やで?」
ひどくギラギラしているくせに、どこか優しいその目に、ギルベルトは泣きたいような気分になってきた。
殺るか殺られるか…という獣じみた凶暴さを揺り起こしてしまったのは、自分の不手際の結果な気がする。
もっと展開を早く進めるようにすべきだった。
「とりあえず…追い詰めるために今までのデータまとめるから3日待ってくれ。」
ギルベルトはスマホをしまって立ち上がる。
普段ならとにかくとして、神経が研ぎ澄まされてしまったアントーニョはまずい。
野生動物のような圧倒的な勘で、色々見透かされそうだ。
「とりあえず…親御さん帰るまではフェリちゃんとお兄様二人きりじゃまずいから、ローデリヒに連絡いれておくから、二人が起きたら3日だけ学校休んで、そっちに行くように伝えてくれ。
ここだと万が一誰か見つかったら芋づる式だからな。」
「おん。ほな、エンリケが学校行ってる時間に着替えとりに行くように言うとくわ。」
「一応な、二人だけで行かせず、エリザあたりサボらせて護衛につかせとけよ。」
「そんな、女の子に護衛とか…」
「大丈夫、あいつはそこらの男よりは強えから。思い切りも良いし、いざとなったらためらいなく急所くらい蹴りあげる容赦ねえ女だ。」
「……ギルちゃん………」
「…俺様は別にやられてねえぞ。」
見つめ合う二人……。
「…やられかけて逃げた事ならあっけど…」
「…強いな……」
「…ああ、奴は最強だ……」
そしてぼそぼそと呟いてうつむく。
エリザはギルベルトの近所に住んでいて一緒にアントーニョの祖父の教会に通っていた仲だ。
ローデリヒは二人より3歳年上のギルベルトの従兄弟で、同じく教会つながりである。
こうして双子の匿い先も決まったところで、フランシスが青い顔をして戻ってきたので、今後の予定を話し、その日は解散と相成る。
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