(…今夜中にはまとめておかねえとな……)
アントーニョのマンションを出て、フランシスと二人きりになったところで、ようやく肩の力を抜くギルベルト。
あとは今回ロヴィーノから送られてきた写真をそこに加えるだけだ。
それほど時間がかかる作業ではない。
「ねえ…プーちゃん、なんか変な事考えてない?」
と、そこで野生化したアントーニョほどではないが、人の気持ちの機微に聡い悪友がもう一人側にいた事に、ギルベルトは気づいて慌てて手を振った。
「ああ、わりい。ただ結構経費かかったなぁとか考えてただけだ。
赤外線カメラは親父の借りたけど、今回の指紋のキットとか自腹だしなぁ。」
と、それらしいことを言って誤魔化せば、
「まあ…それは領収書と一緒にトーニョに請求していいよ。
あいつは美味しい思いもしてんだしさ。」
と、笑う。
こちらはどうやら誤魔化されてくれたらしいことにホッとしつつ、今後の事についての思考に没頭した。
これから先はアントーニョは直接対峙はさせられない。
シャレにならない事になる。
もちろん、フランシスを巻き込むなんてもってのほかだ。
――となると…俺だよなぁ……
決行するのは自分一人。
場所も目星はつけてある。
最悪…刺されそうになるくらいはあるかもしれないが、それはそれ。
死なない程度で済めば、学校からいなくなるどころか、厚い塀の中に追い込める。
そこまで行かなくても誘いこむことさえ出来れば、少なくとも学校にはいられなくなるはずだ。
「ねえ、ギルちゃん…」
「ん~?」
駅までの道を並んで歩く悪友が、心配そうにギルベルトの顔を覗きこんでいる。
「本当に…何かあったら言ってね?一人で無理しないようにね?」
という表情は真剣そのもので、どうやら先ほどのギルベルトの言を納得したわけではなく、聞いても答えないだろうと、空気を読んで諦めたというのが正しいらしい。
まあ、その判断は全くもって正しいものではあるのだが…。
「まあ…無理はしねえよ。」
と、ギルベルトは答えたあとに、心のなかで
(…必要な分以外はな…)
と付け足してみる。
ああ…明日の月拝めっかなぁ…。
などと、思っていることが、隣を歩くこの優しい男に伝わらないように、ギルベルトは尽きかけたため息を飲み込んで、黙って前を見て歩き続けた。
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