恋人様は駆け込み寺_9章_1

(…今夜中にはまとめておかねえとな……)
アントーニョのマンションを出て、フランシスと二人きりになったところで、ようやく肩の力を抜くギルベルト。

元々今日の自宅の窓の血文字の落書きも、警察官である父親が趣味で持っている赤外線カメラで撮影し、不用意にも素手で触った部分は、こんなこともあろうかとAmazo◯で通販しておいた指紋検出キットでしっかり採取してあるし、これまでの送られてきたメールや、その添付写真から割り出した写真の撮影位置がエンリケの離れであるという事もきっちりまとめてある。
あとは今回ロヴィーノから送られてきた写真をそこに加えるだけだ。
それほど時間がかかる作業ではない。

「ねえ…プーちゃん、なんか変な事考えてない?」
と、そこで野生化したアントーニョほどではないが、人の気持ちの機微に聡い悪友がもう一人側にいた事に、ギルベルトは気づいて慌てて手を振った。

「ああ、わりい。ただ結構経費かかったなぁとか考えてただけだ。
赤外線カメラは親父の借りたけど、今回の指紋のキットとか自腹だしなぁ。」
と、それらしいことを言って誤魔化せば、
「まあ…それは領収書と一緒にトーニョに請求していいよ。
あいつは美味しい思いもしてんだしさ。」
と、笑う。
こちらはどうやら誤魔化されてくれたらしいことにホッとしつつ、今後の事についての思考に没頭した。

これから先はアントーニョは直接対峙はさせられない。
シャレにならない事になる。
もちろん、フランシスを巻き込むなんてもってのほかだ。

――となると…俺だよなぁ……

決行するのは自分一人。
場所も目星はつけてある。
最悪…刺されそうになるくらいはあるかもしれないが、それはそれ。
死なない程度で済めば、学校からいなくなるどころか、厚い塀の中に追い込める。
そこまで行かなくても誘いこむことさえ出来れば、少なくとも学校にはいられなくなるはずだ。

「ねえ、ギルちゃん…」
「ん~?」
駅までの道を並んで歩く悪友が、心配そうにギルベルトの顔を覗きこんでいる。

「本当に…何かあったら言ってね?一人で無理しないようにね?」

という表情は真剣そのもので、どうやら先ほどのギルベルトの言を納得したわけではなく、聞いても答えないだろうと、空気を読んで諦めたというのが正しいらしい。
まあ、その判断は全くもって正しいものではあるのだが…。

「まあ…無理はしねえよ。」
と、ギルベルトは答えたあとに、心のなかで
(…必要な分以外はな…)
と付け足してみる。

ああ…明日の月拝めっかなぁ…。
などと、思っていることが、隣を歩くこの優しい男に伝わらないように、ギルベルトは尽きかけたため息を飲み込んで、黙って前を見て歩き続けた。





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