結局…それからギルベルトを中心に事情を聞かれ、学校側に多額の寄付をしている祖父のおかげで、警察沙汰は免れることにはなったものの、エンリケは退学処分と相成った。
もちろん他は無罪放免。部活で残っていた生徒達が話を聞いていたというのもあって、多少気まずさは残るだろうが、まあ人の噂も75日というから、じきおさまるだろう。
爺ちゃん一生の不覚だ。」
いったん全員で今はアントーニョの名義のマンションに戻る。
「とりあえず…エンリケは爺ちゃんと国外脱出だ。
いま爺ちゃんが面倒見てる海外の孤児院の子ども達の世話すんぞ。
お前は自分で居場所を作らねえとなんねえこっちにいるより、お前の手を求めてくれるあっちに居た方がいい。
元々お前はいつか一緒に連れて行くつもりで、拠点になる居場所を作ってたんだが、ちぃっと遅くなっちまった。勘弁な。」
子どもにするようにクシャっとその頭を撫でる祖父の浅黒い大きな手をエンリケは振り払った。
「連れてくんなら、アントーニョ連れて行けばええやろ。
俺はあんなボロ教会の離れに押し込んで、こいつにはこんなマンションくれてやるくらい気に入っとるんやから。」
と、そのエンリケの言葉に
「何言っとるん?逆やん」
と、目を丸くしたのはアントーニョだ。
「自分はおっちゃんやおばちゃん、ロヴィやフェリちゃんと暮らせるようにしてもろたけど、俺は場所ないからって一人で追い出されたんやで?」
あ~もうこいつらは……
祖父はパン!と額を片手で叩いた。
「あ~、まあどっちかっつ~と、まだトーニョの方が近いな。
…エンリケは人間関係作んの苦手だから元からある人間関係の中に残してやんねえとと思った。
トーニョはまあ…確かに放り出しても大丈夫だと思ったのは思ったんだが…別に追い出したつもりじゃねえぞ?
多少離れた所に住んでも双子の方から遊びに行くだろうな~って思ったからで…」
「あ~うん。言い方悪かったわ。堪忍な、爺ちゃん。」
「うん、まあお前は物だけ早々に与えて自分で生きてけって放り出しちまった感がなくはないから、しかたねえな。
爺ちゃん、日本離れてから、ほぼお前の心配してなかったし。
エンリケがエンリケらしく生きていけそうな場所をずっと探してた。」
「…大きなお世話だ。帰れジジイ。
俺はアントーニョと違うて誰かに厄介かけないと生きていけへんて言いたいんか?
俺はアントーニョと違って無能で何もできひん人間て言いたいんか?」
ギュッと拳を握りしめてうつむくエンリケに、祖父は困ったように眉を寄せて首を振った。
「たぶんな~、トーニョは自分から求めるくらいの生き方の方が上手くいく。
エンリケは逆に求められる生き方のほうが幸せになれる気がしたんだよ。
ただそんだけだ。」
「言い訳なんか要らんわ。帰れ。」
頑なに首をふるエンリケだが、祖父の意思は固いようだ。
「学校側が警察に連絡しねえ条件の1つは、俺の監視の元お前を海外へ連れだして、二度と学校の生徒に迷惑をかけない事だ。
俺が連れて帰りたいっつ~のを別にしても、お前に拒否権はねえぞ。」
と、エンリケも聞いていた学校側とのやりとりを改めて出されれば、エンリケは黙って俯いた。
「さて…と、そちらさんには、本当に孫が迷惑かけたな。悪かった。」
と、そちらの話は済んだとばかりに、祖父は今度は悪友二人とアーサーの方を振り返って頭を下げた。
「いえ…俺も少し焦ってやりすぎましたし…」
と、ギルベルトが言えば、
「あ~、高校生には思えねえすげえ手並みだったな。
大したもんだ。」
と、笑う。
「まあエンリケは俺が連れてくからもう迷惑をかけるこたぁねえと思うが、アントーニョはな…法的には保護者になってるけどな、実質もう保護出来ねえっていうかしてねえっていうか…マンション与えた時点でこっち側の保護からも義務からも引き剥がしちまった形だから、こいつにとっては世間の皆様、友人全てが唯一の家族だ。
俺に似ちまって、ちょっとばかし不精でいい加減で暴走基質なとこはあるが、仲良くしてやってくれ。」
と、くしゃりと頭を撫でる手を、アントーニョの方は拒まない。
むしろ離れていく手を名残惜しそうに見送った。
こうしていったん教会の離れに戻って荷物をまとめさせるからと、エンリケを引きずるようにして祖父が帰って行くと、アーサーがお茶を出した茶器を片付けようとトレイに乗せて立ち上がりかけるが、アントーニョは俯いたまま、その腕を掴んだ。
「…あとで親分片すさかい…ちょっとだけここにおって?」
そう言う声が震えているのに気づいて、アーサーがソファに座り直すと、アントーニョはその自分より一回り細い身体を強く抱きしめて、肩口に顔を埋める。
そこで悪友二人はソッとトレイを持ってキッチンへと退散していき、アントーニョとアーサー二人がリビングに取り残された。
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