恋人様は駆け込み寺_5章_3

「…リア充爆発しろ……」

月曜日、やはり二人で登校して授業ギリギリまではアーサーと一年の教室に。

2年のアントーニョ達のクラスは1時間目は自習だったので、せっかく週末の生活を報告してやったわけなのに、やや疲れた様子のギルベルトから返ってきた返事はそれだ。


ぺたりと机に突っ伏したままのギルベルトに隣の席のフランシスが

「なあに?ギルちゃん、何か疲れてるね?」
と、ゴソゴソとカバンを探って中から出したクッキーの袋をその手の上に置く。

あ、ダンケ…と、ギルベルトはそれをあけて口に放り込むと、モゴモゴと咀嚼した。

「相変わらずフランの菓子はうめえな…」
と、アントーニョにも差し出すと、アントーニョもそれを口に。

「腹たつけど美味いなぁ」
と、複雑な感想を述べた。


「腹立つってなによ、腹立つって」
「ん~、まんまやで~。アーティがな、フランの菓子が美味い話とかするから。
まあ親分が作ったんも、美味し~って食うてくれるけどな、恋人が他の男の話すんのって楽しないやん」
と、プクリと膨れるアントーニョに

「恋人と楽しい同居生活してる身でふざけんな。
…こちとら一人楽しくStkrの相手してたっつ~のに」
と、ギルベルトがまた机に突っ伏す。

そこにアントーニョが追い打ちをかけるように続けた。

「え~、でも色々大変な事もあるんやで?」
「…例えば?」
突っ伏したまま聞くギル。

「ん~アーティが可愛すぎる事やとか…」
「死ね」
「ギルちゃん、ひどいわ~。
一人楽しすぎる歴イコール年齢のギルちゃんにはわからんかもしれへんけど、色々大変なんやで~」
「何が?どこが?具体的に200字以内で述べろ」
「……キスがな~、クリスマスまではできへんねん」
「はあ?」

意味不明な言葉に少し顔をあげるギルベルトの視界に入ってきたアントーニョの顔は真剣そのものだ。

「アーティ、やっぱり初めてやから、大事にしてやりたいやん?
せやからキスは思い出になるようにクリスマスにって決めてんねん」
と、割合と色々こだわりがなく、来る者拒まずで食ってきたアントーニョにしては本命らしく大事にしているようで、なによりだ。

自分が苦労してStkr引き受けているだけはある…と思ったのは甘かった。


続く言葉…
「愛撫する時に胸とか首筋とか耳の延長線上でうっかり唇にしてしまいそうになんねん」
で、真っ赤になってガタっと立ち上がるギルベルトに、教室のあちこちでふざけあってるクラスメート達が何事かと振り返るので慌てて座って、小声で、しかし叫ぶ。

「手ぇはええだろっ!!!!!」

「え~、別に手ぇ出してへんよ~」
「…それで出してないなら、どうしたら出してるって言うんだ?てめえは。
なにか?妊娠でもさせねえ限り出してねえって言いはるのか?」
ヒクリと頬を引きつらせるギルベルトに、アントーニョは相変わらずのほほ~んとした口調で答える。

「ギルちゃん、ちょお落ち着き。男同士で子どもは出来へんで?
親分は単に抜いてやっとるだけやって」

「は?」

「だ~か~ら~、あの子自分で抜いた事ないねんて。
せやから毎回下着汚すのもなんやろって思うて抜き方教えてやってんけど、やっぱり自分で出来ひんねん。
で、抜いてやる時にちょっと出やすいように色々したっただけやって。
親分は出してへんで?」

「…まじか……」
「…も~…坊っちゃんはぁ……」
二人揃って頭を抱える。

「…ある意味…生殺しだな。うん、悪かった。お前偉いわ」
頭にやった手でそのままグシャグシャ頭をかくギルベルトと、苦笑するフランシス。

そんな二人に構うこと無く、アントーニョは愛しの恋人を思い浮かべたのかウットリとした目で語る。

「でもほんま可愛えんやでぇ…。
頭もええし、家事も料理以外は完璧にこなすし、そのくせあどけなくて可愛えって何それ出来過ぎやん。
親分が作ったった飯食うてる時なんか、リスみたいに頬いっぱいふくらませてな、旨そうに食うんや~。
親分、もっと早くあの子とおれば良かったわぁ~。
今でもめっちゃ可愛えけど、ちっちゃい頃のあの子なんて、絶対に天使やったやん?」

「あ~その頃お前がアーサーにちょっかいかけてたら、エンリケに呪われてたかもしれねえけどな」

テンションの高いアントーニョに若干うんざりした口調で返すギルベルトを、フランシスが少し心配そうに覗きこむ。

「ギルちゃん…大丈夫?何か結構大変な事になってる?お兄さんに手伝える事ある?」

一応自分の従兄弟が原因でもあるし、フランシス自身も普段は変態行動が多くとも、根が優しい気遣いの男だ。
今日もおそらく全部を引き受けて疲れているであろうギルベルトのために先ほどのクッキーを焼いてきてくれたのだろう。

これが女だったら、本当に惚れるとギルベルトは思う。
まあ…男としては腕力的に若干頼りないわけではあるのだが…。

ともあれ、ギルベルトは黙って自分のスマホを出してみせた。

「うあぁ~~~…なにこれ…」
「…ギルちゃん…動物虐待はあかんで…」
と、引くフランシスと、眉を潜めるアントーニョ。

「俺じゃねえからな。よく見ろ。貼り付けてんのは送り主の方だ」
「あ~ほんまや。で?これ誰から?」
と当たり前に聞いてくるアントーニョにギルベルトはガックリと肩を落とす。

てめえの従兄弟からだよっ!と言ってやりたい。


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