恋人様は駆け込み寺_6章_1

金曜日の帰りにエンリケにメールを送ったギルベルトだが、そうすると当たり前に向こうにもギルベルトのメルアドはバレる。

嫌がらせメールが来るのは想定の範囲内の事で、2つあるうち、友人や家族用じゃない方、アンケートその他で使っている、いざという時には捨てられる割りとあちこちに配っているメルアドから送っているのだが、それでも気持ちの良いものではない。

なにしろ送って来られるメールは陰湿というのを通り越して陰惨で不気味だ。

どうやら何か黒魔術のようなものなのだろうか…床に描かれた魔法陣のようなモノの上に首を切られたネコの遺体の乗っている写真が添付され、本文は

悪魔に身を売ってでも呪ってやる…覚悟しとき…
である。


そしてどこからか調べたのかブログにもずっと『呪われろ…呪われろ…呪われろ…』というコメントが羅列。
朝学校にくると、やはり件の写真と共に呪われろ…の文字が並んだものを印刷した紙が下駄箱に入っている。

「ねえ…これってやばくない?警察とか届けた方がいいんじゃないの?」
と、一連を見終わったあと、フランシスは真っ青な顔をして身を震わせる。

常軌を逸している気がする…というフランシスの主張に、
「あ~、まあまともじゃねえな」
と、同意しながらも、ギルベルトは

「でもまあ…もう少し様子見だ。俺にも色々考えがあるから、気にすんな」
と、肩をすくめた。


そう…いきなり黒魔術系で来るとは思わなかったが、まあこの程度の嫌がらせは想定の範囲内だ。
気味が悪い…という他は今のところ実害はない。

第一…この程度の嫌がらせなら警察に訴えたところで、所詮ネット内の事でもあるし、様子見だろう。
変に小出しにして他からぬるい警告が入って、逃げられては元も子もない。

これらのメールがエンリケからの物であるというのは、添付されてきた写真のExif情報から撮影した場所の位置情報が読み取れたので確認が取れているし、何かもう少し…小さな傷害でもなんでもいい。
刑事法に触れるような事をやらかしてくれれば、貯めておいた情報を全部揃えて証拠として差し出せる。
それまではジッと我慢の子だ。


さらに…少し気になることには、嫌がらせ以外に不思議なメールが来るようになった。
いわゆる密告メールと言うやつである。

こちらもおそらく捨てアドで、簡単に言うとエンリケが金曜日に自分が自分の味方だと思っているあたりにギルベルトを敵とし攻撃を仕掛けるのを手伝えとそのメンバーだけを集めたラインで言ってきたというのだ。

しかし自分を始めとする大部分は、今までもエンリケの嫌がらせの矛先が向くのが怖くて色々従っていたに過ぎず、もしギルベルトが正面から対峙するつもりなら、色々影から支援したいというものである。

完全に信用は出来ない…と思う。

この申し出自体が罠な可能性もあるし、そうでなくても矛先が向くのが怖いから…という理由で黙って色々を黙認してきた相手だ。
こうして情報を流している事がバレたら、今度はエンリケの機嫌を取るために偽情報を流しかねない。

(まあ…それでも利用しねえ手はねえか…)

メールにはエンリケのラインのログ。

そこには延々と一緒の敷地に住んでいる親戚やアントーニョに対する悪口や恨み事、学校の同級生や同じ部、委員会などのメンバーがいかに無能で自分に負担を与えているかなどが延々と綴られており、最後にギルベルトへの呪詛と共に、嫌がらせに協力するような要請がなされている。

ほとんどが恨み事、愚痴、死ねなどの暴言で埋め尽くされたログを見れば、ああ、これでは見ている方も嫌にもなるだろうし、人間性も疑われるだろうと、普通は思うと思う。

つながっているメンバーには非常にマメに優しげな言葉をかけてはいるが、密告主に言わせると、ここにいない人間に対しては中傷しかしない人間なので、単に周りを自分につなぎとめるために言っているだけというのが見え透いていて心許せないし、出来れば関わりたくないのだということだ。

まあ…気持ちはわかる気はする。
ギルベルトとて、目の前にいる人間にはおべんちゃらを言って機嫌を取るが、あとは他の人間に対する影での中傷か自分の自慢しかしないような輩と付き合いたいとは思わない。

そう考えるとまあ一応密告者の本心としては、自分は安全な所で協力するから、ギルベルトがエンリケをなんとか潰してくれないかと期待しているという程度だろうか…。

そんな可能性を考えながら、結局はその申し出は受けておくことにする。


とりあえず、その情報によると、エンリケは後輩を脅してギルベルトの自宅を調べたらしく、窓に殺した動物の血で落書きをする予定らしい。

折しも脅されたクラスメートから、脅されて住所を教えてしまったので気をつけて欲しいと詫びのメールが届いているので、嘘ではないと思う。

(阻止してもいいけど…まあやらせておいた方があとあと追い詰める材料にはなるな…)

などとこれから起こるであろう事も種明かしもわかってはいるのだが、やはり気持ちの良い事ではない。


それに長引いて短気で暴走記質な二人――主に自分が犠牲になれば良いという方向で暴走するのが一名と、自分が守るべき存在と思った相手に手を出されると即ブチ切れるのが一名――の方に矛先が向いてややこしくならないうちに片をつけなければ…。




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