恋人様は駆け込み寺_5章_2

実際…アーサーは勉強を深く理解しているだけに、教え方も上手く、マンツーマンで教わっているアントーニョはたった2日でかなり勉強がわかるようになってきた。
とりあえず追試は余裕でクリアできそうだ。

しかも…アントーニョが勉強している間、家の中で何でも自由にしていて良いと許可すれば、アーサーはなんと掃除洗濯をしてくれていた。

洗濯物を放り込んだままだった洗濯機を回し、洗濯が終わると楽しげにベランダで洗濯物を干すその姿は、母が事故で亡くなって以来、自分以外の人間がそんなことをする姿を久しく見ることのなかったアントーニョの郷愁を誘う。

一度目が終わると、アントーニョの勉強の様子を見に来るついでに
「なあ、カーテンも洗っていいか?」
と、コクっと小首をかしげて聞いてくるアーサーに、アントーニョは慌てて溢れそうになった涙を振り払って
「おん。頼むわ~。おおきに」
と、微笑みかけた。

ああ…ほんま嫁さんみたいやぁ…
と、ほわほわとしていると、洗濯機が再び回り始める音。

「お疲れ様。」
と、コトンと机に置かれるミルクティは、そんな幸せ空間を体現するように、まろやかに甘い。
乱雑だった室内は片付けられ、窓もぴっかぴかに磨かれて、明るい日差しがキラキラと差し込んで部屋を照らした。


追試のめどもほぼついてきたことだし、今日は昼食を食べたら午後からは買い物に行こうか…。

料理は絶望的にダメだとフランシスに聞いていたので、日常の家事を全部やってもらっているからと理由づけて、食事だけはアントーニョが作っている。

それを置いておいても、料理は元々好きなほうだし、アーサーは作った物をとても美味しそうに食べてくれるため、作るのが倍楽しいし、ここだけは譲れないところだ。

「追試も大丈夫そうやし、午後からは買い物行こうか~。
実はこのマンション元々は爺ちゃんのモノやったから、家具も食器も全部その頃のまんまやねん。
せやからもうちょっと普通の普段使いのモンも買いに行きたいし、ついでにアーティの洗面道具とかも買っとこ~」
大鍋からパエリアを取り分けながら言うと、アーサーはキラキラした目をパエリアに向けながら、心ここにあらずといった感じでコクコクと頷いた。

そこまで話が耳に入らない…もしくはどうでもいいほど、自分が作った料理を食べたいと思ってくれていることが嬉しい。

アントーニョは基本的にセルフサービスが好きではない。
してもらうことも、してあげることも好きな人間なのだ。
その欲求も非常にバランスの良い形でアーサーは満たしてくれる。

ずっとそうして暮らしたい。
だからこのマンションにアーサー用の物をたくさん買って、置いて、アーサーがここにいるのが当たり前の空間にしたくて、アントーニョは脳内で午後に買う物の算段を始めた。



こうして二人で日用品を買いに出て戻った夕方。
アーサーが買ったものを洗ってしまったりしている間にアントーニョが夕飯の準備。

まるで新婚家庭みたいやんなぁ…と思うと、自然と鼻歌が口を付いて出る。

チラリと横に目を向ければ食器棚に燦然と並ぶ色違いのお揃いの食器。
白地にアントーニョは黒、アーサーはグリーンの模様。
祖父が残していった各種ブランド物の食器のように高額ではないが、二人で選んで買った大事な食器だ。
今日からこれを使うかと思うと、一段と心が踊る。

「アーティ、ご飯やで~」

大皿は元々あったものを、取り皿やカップなどは今日買ったものをテーブルの上に並べてアントーニョが呼ぶと、取り込んだ洗濯物をたたんだり、アイロンをかけたりしていたアーサーがパタパタとかけて来た。

「洗濯物片付け終わったぞ。」
と手を洗って席につくアーサーの頬に、
「ん。おおきに。お疲れさん」
と、キスをして、自分も席につく。

「「いただきま~す」」
二人で手をあわせて二人でおそろいの食器で二人で夕飯。
ああ…幸せだ。






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