祖父はこのマンションを唯一、生前贈与でいち早くアントーニョにくれていた。
…というか、どうやら資産家らしい祖父は、その資産は三分の1は教会を継いだ長男一家が色々気にせず奉仕活動に勤しめるように、三分の1は事業を継いだ次男一家が事業を回せるように、あとの3分の1は他に4人いる、娘、息子一家に平等に…というつもりだったらしいが、動産不動産入り交じっているとそうも行かず、祖父いわく、各息子娘達の中では、このマンション1棟のみというのは一番ささやかなものらしい。
そしてそれを引き継いだ時点で、この先どれだけ祖父が資産を作ろうと、アントーニョにはあずかり知らぬところになった。
だからこその、贈与税その他も祖父持ちの、他より早い相続だということだ。
と、最後…確か1年ほど前にフラリと訪れた時に祖父はそう言っていたが、アントーニョに言わせれば祖父の金銭感覚がすでにおかしい。
確かに莫大な固定資産税、建物の維持費、修繕費、管理を任せる業者に支払う管理料諸々、出て行く費用は多額だが、それを差し引いても有り余る金額が月々入ってくる。
「爺ちゃん…あんまり子どもや孫甘やかすと働かんようになるで?」
と、苦言を呈すれば、祖父は
「さらに働いて稼ぐんだよ。で、思い切りつかえ!経済回して自分が今の不景気回復してやるくらいの勢いでな」
と、豪快に笑った。
ああ、祖父はそういう人だ…と、アントーニョも笑う。
まあ今は祖父のお預かりで祖父から生活費を渡されていて、マンションの収益は使うこともなく亡くなった親の遺産ともども銀行口座行きだし、もし祖父に何かあっても祖父の代からの弁護士、経理士や管理会社が色々管理はしてくれているので、学費と生活費には困らない。
それでもアントーニョは学校を卒業したら普通に働いて、今住んでいるこのマンションに住み続けるだろう。
間取り自体は2LDKと一人暮らしには広すぎるくらいで、しかし今は客間にしていた片方の部屋にはアーサーがいる。
大学まで卒業して社会人になったら…というか、今でもこのまま一緒に暮らしてもええなと思う。
そうしたら朝から晩まで一日中、可愛いこの子を独占出来る。
二人だと若干部屋は狭くなるかもしれないが、そのくらいの方が寄り添えて良い。
2つのベランダは1つはプランタでトマトを植えていて、1つは洗濯物などを干すのに使っているが、プランタを置いてある方は鉢を増やしてアーサーにも好きな花を植えさせてやりたい。
アーサーがアントーニョのマンションに来て3日目の日曜日。
アントーニョはすでに自宅に返す気がなくなっている。
奇しくも今揉めている従兄弟と同じような事を望み考えているアントーニョだが、それに関してはアーサー自身、あまり嫌がっている素振りはない。
「どうせ二人共一人やったら一緒の方が楽しいやん?
なんならずっとここにおってもええで?」
と、クシクシと頭を撫でてそう言ってやると、それがアントーニョの真意なのか冗談なのか、少し不安そうな顔でアントーニョを見上げて、
「べ…別に…トーニョがいても良いって言うなら、どうせ一人だし居てもいいんだけどな…」
と、探るような返答を返してくるのだ。
「おん。一人やと寂しいし、どうせ学校も一緒やし、一日中ここにおったらいつでも勉強教われるし、今回の諸々片付いたら荷物も持ち込んだって?」
と、具体的に話を進めてみても、少し赤くなった顔でコクン頷かれる。
結局…セクハラもストーカーも、何をされるかではなく、誰にされるかで決まるらしいと、それを聞いたギルベルトはシミジミと『リア充爆発しろ!』と叫ぶことになるのである。
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