恋人様は駆け込み寺_4章_7

「これはこれは…ずいぶん本格的なこった」

一人通常通り授業を受けた学校帰り、早退したフランシスと待ち合わせた駅前から少し離れたスタバでギルベルトは自分のスマホに送られてきたメールを見て呟いた。

「フラン、お前のとこにも送られて来てるか?」
と、正面に座る悪友に自分のスマホのメール画面をかざして見せると、フランシスも黙って同じように自分のスマホをかざす。

「ね、あれなの?
あいつってさ、教会の関係者だけあって、なんかやばい力があったりするわけ?」

と、少し気味悪そうに眉をしかめて言うフランシスに、ギルベルトは、アホか…と、呆れて肩をすくめた。

「お前な、俺様の事すぐ厨2って言うけど、お前の発想の方がよっぽど厨2だって」
「え~でもさ、坊っちゃんが今現在履いてる靴とかわかっちゃうんだよ?」
と、フランシスが暖を取るように両手で持っていたカフェラテのカップに口をつければ、ギルベルトはハ~っとため息をつく。

「普通に考えればな、隠しカメラだろうよ。
たぶん…寝室は外から覗こうとするってことは、寝室とかはしょっちゅう掃除するだろうし物の移動も激しいだろうから置けなくて、靴以外の物は比較的動かさない玄関にしたんだろうな」

「うあ、うああ~~~!!!そんなもの普通に手に入っちゃうの?」
思い切り身震いするフランシスに、ギルベルトは

「普通に◯ドバシとかでも売ってるぞ?本来の目的は覗きじゃなくて監視カメラとしてだけどな」
と、ネットで某電化製品の量販店につないでそれをフランシスに向かってまた見せた。


「うあ~…ホントだ。こわ~。
まあ…本当に超自然的な力よりは良いけど…」
「お前…馬鹿にするくせにそういうの怖がるよな」
と、眉を寄せながら、ギルベルトは新たにきたメールに目を通した。

なるほど…本当に短時間なのにずいぶんと信用されたもんだな…と、そのメール内容に感心する。

「何?新しいメール?お兄さんのところには来てないけど?」

とギルベルトのメールの着信音にスマホを覗きこもうとするフランシスを片手で制して、ギルベルトはそこに記載されているメルアドにアクセスしてパスを入れる。
アーサーのメルアドだ。

アーサーのスマホの方の電源はおそらくアントーニョが切ったのだろう。
ここ数時間ですごいメール履歴が並んでいる。
もちろんいずれもエンリケからだ。

そのうち1つを開いてみると、画像が添付されている。
キリストに口付ける男の絵…イスカリオテのユダだ。

そしてメールの内容は
『ユダみたいな裏切りを恨まなかったといえば嘘になるけど、今は自分のことは恨んでへんよ。
ただ自分をそそのかした奴らは心の底から恨むし呪うわ…許さへん…』

(…お~、こわ)
と、ギルベルトは苦笑する。

まあアーサーからスマホを取り上げて、メールの対処をギルベルトに委ねたアントーニョの判断は正しいと思う。
そう、自分は苦笑ですむが、こんなものを見せられた日には、しっかりしているようでいて意外にメンタルが弱いあの後輩は軽いノイローゼになりそうだ。

とりあえず…急げば結果は逃げ場のない、とてもハッキリとした形で出てしまいそうだが、関係のない…もっと言うなら過去とは言え可愛い弟に害を及ぼした相手の立場と可愛い後輩のメンタル面の健康…どちらを優先するかなんて考えるまでもない。

「さあてと…早々に追い詰め始めるか~」
とギルベルトは残ったラテを一気に飲み干すと大きく伸びをして立ち上がった。

「とりあえずお前はアーサーの家に行って着替えや教科書とか荷物取ってきて俺様のとこに持ってきたら家に帰れ。
それは俺様が宅配でトーニョんとこ送るから。
まあ最終的にはわかっちまうかもしれねえけど、出来ればなるべく長くアーサーの居所ばれない方がいいしな。
あとは…お前は、アーサーがトーニョんとこにいるって事を伏せた状態で、出来るだけ多くにアーサーがトーニョと付き合ってることと、ずっとストーカーにあっててまいってるってことを広めろ。
相手の名前を出す必要はねえ。
個人名出すとやっかいだし、ださねえでも学校関係者はわかるから。
その間に俺様は色々考えるから。その他の指示は随時出す」
と、去り際にフランシスにそう言って、上着を掴むと席を立つ。

とりあえず…自分はなるべく目立つように動いた方がいい。
出来れば黒幕は自分でアントーニョは協力者くらいに思われた方が動きやすくて楽だ。

幸いにしてこれまでアントーニョはアーサーとの関係が薄いし、自分は過去にエンリケと色々あるので、あちらとしてもアーサーに拒絶されたと思うよりは、自分に敵意を持っているギルベルトが画策していると思ったほうが気分的にいいだろう。

エンリケの言う、” そそのかした奴ら”に自分が入っていることは間違いない。
どうせなら一気に標的になるか…。


電車を待つ駅のホーム。
ギルベルトはいつものように電車に乗るのに携帯の電源を切る前に、アーサーのメルアドから入手したメルアドに一本のメールを打っておく。

タイトルなしで本文は2行だけ。
『アーサーは迷惑してる。いい加減手を引け』

(さあて、これで標的は俺様んとこに向いてくれっかな~)

ちょうどきた電車に携帯の電源を落とすと、ギルベルトはそれをポケットに突っ込んで電車に乗り込んだ。

スペックも高くて人はいいのにどこか不憫…そう称されるギルベルト。
そう言われる所以はこの、得にもならない事に首を突っ込んだ挙句、いつのまにか一番大変な役割を引き受けてしまっていることにある…ということに本人は全く気づかない。

まあ気づいてもやっぱり同じ事をするであろうところが、”人はいいのにどこか不憫”な男なのである



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