恋人様は駆け込み寺_4章_6

体調の悪いところに慣れない事をさせて疲れさせたはずだ…と主張して、片手をその背に回して身体を支えつつ、アントーニョは自分の手にスプーンを持ってアーサーの小さな口にリゾットを運んでやる。

最初は自分で…と抵抗をしていたアーサーも、こういう状況ならこうするのが自分が恋人づきあいをする時のデフォルトなのだと断固として言うと諦めて、少し恥ずかしげに口を開けるようになった。
そんな様子も可愛らしくて、胸が高鳴る。

こうして食事を終えると、アントーニョは電源を切って置いたスマホをアーサーに渡した。

その上で、
「これな、とりあえず寝てる時に鳴ってもあかんから、電源切っといてん。
アーティは体調崩しとるし、もう応対はせえへんほうがええと思うんやけど、ギルちゃんが色々対処する参考になるかもしれへんし、出来ればメールをギルちゃんが見られるようにしたらあかん?」
と、切りだすと、アーサーの目が迷いに揺れる。

「ギルちゃんは悪用するような奴やない。それは親分が保証したる。
必要なくなったらパス変えればええし、もし不安やったら親分のメールとパスを代わりに教えたるから、ギルちゃんがやらかしたら、それ好きにしてええで?」

お姫さんの事助けてやりたいねん…と、顔を覗きこんで頭を撫でれば、少しはにかんだように視線がそらされて、

「…トーニョが…そう言うなら教える…」
と、そこにあったノートにメルアドとパスをサラサラと書いてよこした。
アントーニョはそれを受け取ると、自分の携帯でギルベルトに送る。

その上で
「おおきに。スマホは…親分が預かっててええ?その代わり親分の貸したるから」
と、アントーニョが言うとアーサーはコックリと頷いて、

「別に…スマホ貸してくれなくてもいい。
俺よく携帯充電し忘れるから、親は緊急の時はフランのおばさんのとこに連絡するし、おばさんはフランに連絡できるし…フランはトーニョに連絡できるし……。
トーニョは……」
と、そこで言葉を切って、アーサーは少し不安げにアントーニョを見上げる。

「ん?俺は?」
とアントーニョが聞き返すと、片手でシーツを掴んで何度か言いかけてはやめ、言いかけてはやめしたあとに、俯いてきゅっと目をつぶると、おずおずと

「俺と一緒に…いてくれるんだろ?」
と小さな小さな声で言った。


あかん…これめちゃあかん…。
可愛いすぎやんっ!

「おんっ!もちろんやでっ!
さすがに授業中は無理やけど、あとはずっとついててやるさかい、安心し。
…というか、もう自分当分ここから学校通わん?一人暮らしの家にかえすの心配やし…」

「…え…でも……」

「向かいのビルの屋上から見張られてるとか嫌やん。
どうせフランやギルちゃんもしょっちゅう泊まっとるし、うちやったら気にせんでええよ?
フランに荷物取りに行かせるから、そうしよ?」

と言われれば、なにか見張られている気がする自宅に戻るのも怖い気がして、アーサーは頷いた。

よしんば…本当に自分の事が全てわかってしまうのなら、一人きりで家にいると知られるよりはアントーニョも一緒だということを知られた方が心強い。

「…迷惑かけて…ホント悪い……」
と、心細さが遠慮に勝ってそう言うと、
「迷惑やないよ~。親分かて可愛えアーティが一緒の方が毎日楽しいわ」
と、本当に嬉しそうな答えが返ってきてホッとした。

「ほな、ギルちゃんとフランに連絡するな~」
と、アントーニョはそれぞれにメールをし、それが終わると、当初の予定通り、アーサーの指導の元、追試の勉強に勤しむことになった。



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