L5
正月明け…忙しい恋人様はスペインより一足先に仕事始めだ。 そこでまだ休暇中のスペインはフランスが置いていった高級ワインを手に、久しく敷居をまたぐ事のなかった家の前に来ている。
「メリークリスマスっ!親分っ!!」 クリスマス当日…スペインの家には元子分や悪友達が大勢集まる。 悪友二人はもちろんお客様ではないので、早朝から来て、料理の仕上げを手伝い、午後に向けてぞろぞろと他が集まる感じだ。
「俺とポルの同盟は 1373 年から続いてる」 「おん、知っとるよ」 「その間な、ポルと特にそういう関係を持った事はないんだ」 「……」 「でもな、あいつはマカオに出会ってすぐそういう関係になっている」
「とにかくな、あいつにとっては家族より伴侶の方が大事やねん。 でもってあいつの言う家族っちゅうのは実家のそれやから、その2つが重なる事がないんや。 実家の家族は当たり前に伴侶ちゃうし、伴侶は実家の家族ちゃうって言うことや。 親分が言う家族っちゅうのは、実家もそうやけ...
「たしかにな、国的にはそうやな。 同盟言うても必ずしも対等ちゃうしな。 自分らは確かに国力に差があるし、自分の国があいつの国に内政干渉したり、一見対等に見えて実はあいつの国だけ産業終わるようなえげつない条約結んだり、経済的隷属に近いみたいに言われたりするけどな。 で...
その後、料理を続けようとスペインがキッチンへ足を向けると、足元で ――まぁお と鳴き声がする。
涙と鼻水でもうボロボロになった顔を袖口で拭こうとすると、手の中の子猫がくるりと手の内を飛び出して、パフンと煙に包まれたかと思ったら、目の前には涙目の英国紳士。 「…なんでお前まで泣くんだよ?」 と、泣き笑いを浮かべて、ハンカチで顔を拭ってくれる。
おそらくスペイン以外の人間が聞いたなら、彼が苛立っているなどとは決してわからないだろう。 それでも内容は内容だ。 「うああぁああ~~!!!ポルトガル、すまんっ!俺が悪かったわ。 ちょお落ち着き。茶でも淹れようか?」 ポケットの中の子猫が身を固くしたのを感じて...
こうしていつものように切ったり下味をつけたりする作業を終え、そろそろ火を使うため、これも子猫のアーサーになっている時のいつもの待機場所になっているカップを出そうと包丁を置いて手を洗い、食器棚のドアに手をかけたところで、ピンポーンと玄関のベルが鳴り響いた。
たまに指先を伸ばして顎の下をかいてやると、素直にゴロゴロと喉を鳴らすのが可愛らしい。 人間の時の素直になれない様子も可愛いのだが、こうやって素直に甘えてくれるのはやっぱり嬉しい。
「寒いなぁ。はよう家に帰ろうな」 クリスマス前の買い物。 普段なら両手に荷物を抱えるところだが、今のスペインはコートの襟元からキラキラ光るまんまるのグリーンアイできらびやかな街並みに楽しげな視線を向けている可愛い可愛い恋人を支えてやらねばならないため手が空かない...
ぽんっ!と煙と共に着いたのはスペインの部屋のリビング。 日付が変わってハローウィンは終わってしまったらしく、妖精達の姿は光にしか見えなくなってしまったが、部屋中をキラキラと飛んでいるのは認識できる。
………… ………… ………… お前…いったい急にどうしたんだ…… ま~お~と力ない鳴き声。
え?? なんだか様子が変だ。
それはスペインの家を模しているらしい。 扉はビスケットでできていて、開けられないので齧って中に入ると、リビングに。 当たり前だがこれは別空間らしいので妖精さん達はいないが、そこにはチョコレートでできたテーブルがあり、ソファはマフィンでできているらしく適度にふわふ...
霧にふさがれる視界。 それはふわふわとだんだん形を持っていき、気づけば綿あめになっていた。 はむっ!と食べると甘さが口いっぱいに広がって幸せな気分になる。
「なんやぁ~。いきなり泣き出してまうから、めっちゃ大変な事態かと勘違いしてもうた」 と、しゃがんだまま上を見上げると、最初の妖精が頭上を飛び回り、彼女の目からこぼれた涙がキラキラとした光となってスペインに降り注ぐ。
元々鉄が嫌いだという妖精達。 あのすさまじい音と風も同時に避けたくて、みんな家の中に避難してきているらしい。 家の中がまるでファンタジーの絵本のようにキラキラと光ってる。
こうして玄関を入り、リビングを抜け、キッチンへ入ったスペインを迎えたのは、憮然とした表情のアメリカだった。 その手には襟首を掴まれてマオマオ鳴いている金色子猫。
「ただいま~親分帰ったで~」 と、声をかければ妖精さんがドアを開けてくれたらしい。 す~っと開くドアの横、キラキラした光に 「おおきにっ!あとで一緒にチュロス食べようなぁ~」 と声をかければ、嬉しそうにクルクル回る。