「なんやぁ~。いきなり泣き出してまうから、めっちゃ大変な事態かと勘違いしてもうた」
と、しゃがんだまま上を見上げると、最初の妖精が頭上を飛び回り、彼女の目からこぼれた涙がキラキラとした光となってスペインに降り注ぐ。
ヒックヒックと上方で泣く妖精の周りを他の妖精達がクルクルと心配そうに飛び回った。
ああ、それか…とスペインは思い当ってポケットの中を覗くと、アーサーも困ったようにまぁお~と鳴く。
「う~ん…親分はこの姿のアーサーも好きやからかまへんのやけど…」
「でも…」
「アーサーは?」
と、そこでトントンと指先で小さな頭を軽く叩くと、子猫はどことなくホッとした様子でまぁ~お~!と鳴いて、ゴロゴロ喉を鳴らした。
その様子が可愛らしくて、スペインも微笑む。
「アーサーもかまへんって言うてるよ?
お菓子は仰山作ったから明日戻ったら食べれるようにイギリスの分は取り分けといたったらええんちゃう?」
と上を向いて言うと、どうやらイギリスを子猫に変えた妖精がふわふわと飛んできて、スペインの肩にちょこんと止まった。
(ほんとに…怒ってない?)
スペインの頬に片手をついて小首を傾げる様子はとても可愛らしくて、怒るどころではない。
「ほんまに全然かまへんよ。
てか、親分がイギリス連れてかせんといてって頼んだからやんな?
それでイギリス隠すためにそうしてくれたんやろ?」
と、言うと、コクコクうなづく。
「せやったら妖精さんなんも悪くないやん。頼み聞いてくれてありがとな。
今日はお礼にお菓子いっぱい食べてってな?」
と笑いかけると、少し沈み込んでいたように弱まっていた光が、またぱ~っと明るくなって、部屋中をキラキラした光に包まれた少女たちが飛び回る。
(優しい人ね…太陽の国…)
(イングランドの大切な相手があなたで良かった)
口々に言ってまたキャラキャラ笑い声をたてる妖精達。
「ほなそういう事でパーティー始めよか~」
と、スペインがキッチンに立って皿にお菓子やパイを移し、買ってきたフルーツを使ってフルーツポンチを作ってボウルに盛ると、妖精達の待つリビングへと戻る。
そこにはキラキラ光る妖精達とたくさんのジャックオランタン。
妖精達が面白がって中に入ったいくつかのランタンは内側から光っている。
この日のために妖精さん用に用意した小さな人形用のグラスにソーダを注いで人形用の小さなテーブルに置けば、少女たちの間から小さな歓声があがった。
(ねえ、良い事を思いついたわ)
宴もたけなわになってきた頃、イギリスを子猫に変えて泣いていた妖精の少女がぽんと小さな手を打った。
(せっかくのハローウィンですものっ。素敵ないたずらをしましょう?)
(素敵ないたずら?)
(なになに?楽しそうねっ)
妖精達は本来いたずら好きだ。
本人たちには悪気はないが、そのいたずらには楽しいものから困ったものまで色々あるので、スペインの手に握られたグラスからちびちびとミルクを飲んでいたアーサーは、まおっ!とぎょっとしたように身を震わせて宙を飛んでいる妖精達に目を向けた。
が、金色子猫になっている現在、彼女達がどんないたずらをしようとしているにしろ、それを止めるすべはない。
――まおっ!まおまお~!
と、スペインにはわからない言葉で何かを言っているようだが、妖精達はクスクス笑うばかりだ。
(大丈夫っ。優しい太陽の国にひどいことなんてしない)
(楽しい楽しいいたずらよ?)
え?されるの親分なんかいっ?!
とスペインは少し驚くものの、
「そやね。せっかくのハローウィンやし、楽しまんとな」
と、どんないたずらをされるのか少し楽しみになってきた気持ちをそのまま口にして、妖精達を笑わせた。
(ハローウィンの間だけ開く異世界への門をくぐらせてあげる。
猫でも子猫でも楽しめるお菓子の国よ?)
へ?猫でも子猫でもって…と、思った瞬間、最初の妖精が小さな手に握った、ちょうどイギリスがよく持っている星形の杖の小型版を振る。
(ほあたっ☆)
と、可愛らしい声とともに飛んでくる星を避ける間もなくそれにぶつかると、目の前がぽわわ~んと白い霧に包まれた。
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