正月明け…忙しい恋人様はスペインより一足先に仕事始めだ。
そこでまだ休暇中のスペインはフランスが置いていった高級ワインを手に、久しく敷居をまたぐ事のなかった家の前に来ている。
と、チャイムを鳴らしたら出てきた相手の前にフランスの高級ワインをちらつかせて
「一人で飲みきれんかってん。一緒に飲まん?」
と言うと、男…ポルトガルは少し眉を潜めて
「フランスワインとか…なんや嫌味な感じやな」
と言いつつも、身体をずらして中へ入れてくれた。
ああ、そういえば…ポルトガルがイギリス経済の従属下するきっかけになった例の条約に深い縁があるものだったか…と、少しまずったかと思ったが、まあ持ってきてしまったものは仕方ないし、酒に罪はない。
ポルトガルもその辺の意見は一緒らしく、特にそれ以上追求することもなく、淡々とつまみを作り始めた。
こうして非常に久々に二人杯を交わす。
「自分で勝手に怒って出てったかと思えば、わからん奴や」
ぽつりとそう呟かれて、スペインは苦笑いする。
「まあ…思春期ってやつやん」
というと、ポルトガルにじとりとした視線を向けられた。
「思春期ってだけで他人んとこ攻め入るんかい、自分」
「せやからこうして詫びにエエ酒もってきてんやんか」
「フ・ラ・ン・ス・ワ・イ・ン…な」
うああ~~こいつ根に持つやっちゃなぁ~~
と、もう笑うしかない。
「結局、自分、クリスマスどないしたん?」
と、それも地雷な気もするが、話題が見つからなくてスペインが聞くと、ポルトガルはふふんと鼻で笑って
「マカオの某高級ホテルのスイートで過ごしとったわ」
と、チラリとスペインに視線を向けたままグラスのワインを口に含んだ。
あちゃぁ~~と思うスペイン。
いや、自分的には好ましいし、イギリスも全く気にしていないわけだから良いと言えばいいのだが…と思っていると、そのスペインの変化に気づいたのか、ポルトガルは
「なに?」
と、聞いてくる。
「いや、なんでもないわ」
と言ったところでごまかされてくれるわけもない。
「言いや。そうやないと…」
と、凄まれてスペインは頭を抱えた。
「自分…なんでそう自爆するん?」
「はぁ?」
「…イングラテラがな、自分がイングラテラとそういう関係になりえん思うた原因の1つは間違いなくそれやで?」
「へ??」
「自分と出会った後に、マカオとそういう関係結んだって事は、マカオが自分の嫁やって事やって」
「ええっ?!!なんでそんなん思うんっ?!!そもそも俺そんなん言うてへんっ!!」
こんなに焦ったポルトガルは初めて見たと思う。
やっぱり気づいてなかったのか…と、スペインは同じ男として可哀想に思った。
「あのな、自分がマカオと出来た頃な、香港通して自分との付き合い方聞かれたらしいで?それって別にそんなん知りたいわけやなくて、外堀を…ってことやないか?」
「マカオが……あのおっとりした子ぉが…?」
「いや、もしかしたら自分とマカオの仲知った極東家族の誰かが気ぃ回して外堀埋めようとしたんかもしれへんけどな。
あっこはめっちゃ絆硬いし、中国も弟達可愛がっとるからなぁ。
下手な扱いしたら世界の5指に入る経済大国敵に回すで?自分」
同じ男ではあるし、長い間片思いの相手がいるからといってずっと貞潔を保つのは辛いというのはわかる。
が、手を出すにしても相手を選べと思う。
中国が経済大国になったのはつい最近だからそちらは仕方ないにしても、イギリスが育てていた香港の兄弟分に手を出すなど、愚の骨頂だ。
自分も大概裏表のない直情的なやつだと言われるが、ポルトガルはそれ以上だ。
「自分かてそれなりに遊んどったやん…」
と、意識が逃避方向にむかっている発言に、
「やって、俺はあの子と親しく付き合い始めたの最近やん?
それからは遊んでへんで?」
と、言うと、ポルトガルは頭を抱えた。
「俺…これからはもう少し考える事にするわ…」
「おん。そうし?けど…マカオは大切にしとったほうがええで」
「……もう、そうするしかないやん……」
「ああ、でもな…」
別に落ち込ませに来たわけではないので、何か明るい話題を…とスペインは脳内の記憶を探る。
「あの子にとっては家族っちゅうのは自分が思ってるよりずぅっと切望し続けてて大事なもんなんやで。
なにしろな、もしな、落ちたら死にそうな崖で俺と自分が落ちそうになっとったら、自分のこと先助ける言うとったくらいやで?」
フォローのつもりで出した話題なわけだが、
「…自分……もしかしてめっちゃ可哀想な奴ちゃう?」
と、それに対して喜ぶというよりは、同情の目で見られてしょっぱい気分になった。
まあ…確かにたまに扱いひどいけど…猫でおる時は朝っぱらから顔の上で行進されとるけど…でも…でも……
「「それでも一緒におらんより幸せやって思うてしまうあたりがなぁ……」」
同じタイミングでため息をつき、同じタイミングで声を揃えてしまうイベリア兄弟。
「結局…多く惚れた方が負けやなぁ…」
「…ん……」
顔を見合わせてもう一度ため息。
「…まあ…頑張りや……」
応援は絶対にせんけどな…と、一言を添えるあたりがポルトガルらしくて吹き出すスペイン。
「ま、そういう事で、イベリアの平和と繁栄でも願って乾杯しとこか」
と言うと、ポルトガルはまた嫌そうな顔で
「フランスワインで…か?」
と溜息をつく。
「まあ…嫌な思い出も飲み込むっちゅうことで」
「…自分、上手いこと言うなぁ…」
そんな言葉を交わしながら、互いに互いのグラスにワインを注ぐ。
「ほな、そういうわけで…」
「イベリアの平和と繁栄と…イングの永遠の可愛らしさを願って…」
掲げたグラスを近づけ…カチンと音を鳴らすと同時に口を揃えた。
「「乾杯!」」
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