家族と伴侶のクリスマス10

「メリークリスマスっ!親分っ!!」

クリスマス当日…スペインの家には元子分や悪友達が大勢集まる。
悪友二人はもちろんお客様ではないので、早朝から来て、料理の仕上げを手伝い、午後に向けてぞろぞろと他が集まる感じだ。

「あれ?イギリスさんは来てはれへんの?
せっかくうちの国のビール仰山持ってきたのに~」

と、たくさんの瓶の入った袋を持ったオランダと一緒に来たベルギーはだいぶ人が増えた室内を見渡して言う。

彼女は実はイギリスとは下手をすると自分よりも付き合いが長いくらいで、わりあいと仲も良い。

「ああ、仕事で夜遅くなるんやて。もうこんな日にまで仕事せえへんでもええのに…」
と、オランダからビールの袋を受け取ろうとして、スペインはハッとして手を止める。

それに気づいたベルギーは満面の笑みを浮かべて、スペインが荷物を抱えるのを躊躇した理由、エプロンの中の子猫に手を伸ばした。

「メリークリスマスやで~、アーサーちゃん♪お姉ちゃんのとこおいで~♪」
と、スペインと子猫どちらの返事も聞かずに、スペインのエプロンのポケットに収まっている金色子猫をひょいっと抱き上げ

「相変わらず可愛えなぁ~。
そや、あとでとっておきの猫缶やるさかいな~。楽しみにしとき。」
と、頬ずりをする。

初対面の時はベルギーのその猫に対するテンションの高さに引いていたアーサーだが、何度も繰り返すうちにすっかり慣れて、その男達より数段柔らかくて少し小さい手の中でゴロゴロ喉を鳴らした。

「チャオチャオっ。なんだイギリスいないのか~。
俺紅茶入れてもらって食べようと思ってお菓子いっぱい作って持ってきたのにな~」
と、次にその影からひょいっと顔を出したのはイタリアだ。

「なん?最近イタちゃん、イギリスん事怖くないん?」
とスペインが目を丸くすると、イタリアは細い目をさらに細くしてふにゃりと笑った。

「あ~、なんだか俺さ~、いつだったかアーサーに対する感覚でイギリスに抱きついちゃった事あってさ、やば~とか思って思わず持っていたお菓子の袋差し出して白旗降ったらさ、もうイギリス真っ赤になっちゃってて、どうせなら一緒に食おうって紅茶いれてくれたんだぁ~。それがすっごく美味しくてね。
それからは俺がお菓子持ってきてイギリスに紅茶いれてもらうのがお気に入りだったんだけど…」

あ、アーサー、メリークリスマス♪と、イタリアもベルギーがしっかり抱え込んでいる金色子猫の頭をなでた。

「なんかさ、ホント、イギリスに似てるもんね、この子。
だからなんだかこの子といるうちに怖さ吹っ飛んじゃったみたいなんだ」

と、また一撫ですると、兄も恋人もこちらへ来てしまうので必然的についてくることになったドイツに呼ばれて、またねっと、離れていく。


「あれ?いねえ」
と、その後顔をだしたのはキッチンで料理をしていたロマーノだ。

ちらりとスペインのポケットを覗きこんで、空なのを確認して目の前にベルギーが居ることに納得する。

「おう、そっちか。クリスマスだからな、特別におやつだぞ~」

と、猫用に作ったミルクムースをちらつかせると、それまではベルギーの手の中でおとなしくしていたアーサーは急にマオマオ鳴きながらロマーノの方へ行こうとする。

「お前現金だよな~」

と、それにくすくす笑いながら、ホラ、と、指でムースをすくって鼻先に出してやると、アーサーはフンフン鼻を鳴らしながらそれを舐めとった。

「なんそれっ!かっわかわええっ!!」

「あ~これか。実はこいつがな、離乳食を皿から食べさせずに指ですくって食わせるなんて習慣つけやがったせいで、アーサー皿から食わねえんだよ。」

すさまじいテンションで食いつくベルギーに、ロマーノは小さくため息をついて親指でスペインを指す。
が、ベルギーにとってはそんなことはどうでもいいらしい。

「え~!!!うちもっ!うちもやりたいっ!!!」
と、返事も聞かずロマーノの手からムースの皿を取り上げると、
「さ、あっちで食べような~」
と上機嫌でソファに移動する。

それを止めもせず見送ってから、ロマーノは相変わらず大量のビールの入った袋を持ったままのスペインの肩をポン!と叩いた。

「あのな、こっちはこの通りお前がいなくても進んでくからな。
少し食べ物でも詰めてイギリス入りしたっていいんだぞ?」

「へ?」
その言葉にスペインが目を丸くして振り向くと、ロマーノは少し照れたようにチッと舌打ちをして、視線をそらす。

「俺らはクリスマス抜けだしたくれえで壊れるような仲じゃねえだろうが。
皆つきあいなげえ家族みてえなもんだからな。
でも例え唯一で一番な相手でも、出来立ての関係の恋人様を放っておいたら、下手すりゃお前振られんだろっ。
俺はメソメソ落ち込んで泣くてめえのやけ酒になんて付き合わされんのまっぴらゴメンだからなっ」

ああ、なるほど。
ロマーノの言葉でストンと何かがスッキリした気がする。

イギリスがいたからといって、他の家族を切れるわけではない。
イギリスを優先はするものの、ロマーノやベルギー達とだって縁を切れないだろう。

そして自分も…たぶんどちらかが死にそうならロマーノやベルギーを助ける気がした。
だって…それでどちらかが死んでしまう可能性があるなら…亡くしたものを後悔して生きるのは嫌だし、自分が死ぬならイギリスと二人で一緒に永遠を掴みたい。


「ああ…なるほどな。」
「お前って本当にそういうとこ気ぃ利かねえよな。
ちょっと待ってろ、今俺が料理詰めてやるから」

と、そのスペインの呟きを別の意味に取ったロマーノがキッチンへ取って返そうとするのを、スペインはその肩をガシッと掴んで止める。


「ああ、そっちはええねん。
夜になったら来るし、そうしたら二人でゆっくり過ごすことになっとるから。
今から行ってもすれ違ってまうしな」

「ふん…じゃあ夕方にはみんな追い出してやるよ。
で、きちんと片付けてイギリス様を出迎えろよ。
料理は食い散らかされる前に取り分けておいてやるから」
と、少し笑みを浮かべてキッチンに戻るロマーノを見送って、ええ子に育ったなぁとしみじみする。

愛情を注いで育てた分、本当に愛情深い優しい子に育ってくれたと思う。

そんな事を考えながら、ヨイショッと紙袋を持ち直して、スペインもビールを冷やすためにキッチンへと向かった。


家族と伴侶…やっぱりどちらも欠かせない。

リビングでは本人以外は知らないが実は中身は可愛い愛しい恋人様が、自分の家族と仲良く戯れていて、キッチンでは気のおけない悪友が調理している横で、可愛い育て子が自分と恋人のために料理をせっせと取り分けてくれている。

この空間がとても暖かい気がするのは、暖房のせいばかりではないはずだ。


――親分…幸せモンやんなぁ


笑い声に包まれた賑やかな自宅で、スペインはそんな事をしみじみ思いながら、自分もキッチンに立つ悪友達にまじって、料理の仕上げに加わった。



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