その後、料理を続けようとスペインがキッチンへ足を向けると、足元で
――まぁお
と鳴き声がする。
てっきり人間になったついでに料理に手を出そうとするかと思いきや、あっさり子猫に戻ってポケットに入れろとばかりに爪をひっこめた前足でスペインの足をパフパフ叩く子猫を抱き上げて定位置のエプロンのポケットに収めると、スペインは火を入れようと思っていた料理をいったん放置して、デザートの焼き菓子の準備やら、コンポートにする果物を剥く作業に入った。
たぶん…こうやってくっつきたがる時は、落ち込んでいる時、不安な時なのだ。
イギリスとしての行動性はわからないものの、アーサーの行動性はなんとなくわかる。
だからカップに入らないでこのままエプロンの中でくっついていられるように作業の順番を変えてみたのだが案の定で、アーサーはポケットの中でスペインの腹に小さな金色の頭をすりすりとこすりつけている。
――兄ちゃんやったら…イギリスの姿のまま甘えさせたれるんやろうなぁ…。
本心からだろうとなかろうと、それを望むと望まないとに関わらず、ポルトガルはそのあたりが上手い。
これといって大げさに何かするわけでもなく、愛想が良いわけでもないのに、子どもはなんとなくポルトガルには素直に甘える気がする。
思えば幼い頃の自分だってそうだった。
今となっては黒歴史だが、昔は兄ちゃん兄ちゃんとポルトガルについて回っていた。
構って欲しくてイタズラもいっぱいして、そうするとポルトガルは怒る事もせず、ただポンポンと軽く頭を叩いて、それから手をつないでくれた。
幼い頃は一緒に暮らしていた事は多かったが派生した元の文化が違うから、正確には兄ちゃんではなく、兄弟ではない。
が、二人の関係はまさにそれで、言うなれば義理の兄弟みたいなものだった。
…まあ、ある程度大きくなった、人間で言えば思春期くらいの頃の自分がそんな関係を恥ずかしく思って、一方的に近い大喧嘩の末、今のような家族というには遠く知人や友人というには近すぎる、どこかダレたような関係に落ち着いているのだが…。
そういえば自分には、あれだけベタベタに可愛がったはずの可愛い子分達だって、小さな頃から素直に甘えてくれた事はなかった気がする。
何が足りないんだろうか…とふとポケットの中で必死に頭をスリスリしている金色子猫を見下ろすと、視線に気づいた子猫は
――まぁお?
と小首をかしげた。
「ん~、そういえばロマ達も親分にはそんなに素直に甘えてくれへんかったなぁって思うたら、ポルトガルと何が違うんやろって思うてな」
休憩してお茶にしよか…と、スペインはアーサーをいったんポケットから出してテーブルに置くと、ヤカンに水を入れて火にかける。
「俺がやる」
と、それは誰よりも上手いと自負のあるイギリスはそこですかさず人間に戻って、食器棚からティーセットと自分が置いていった茶葉を出して紅茶をいれる準備を始めた。
さすがにそれだけは手際の良いイギリスの紅茶の準備を眺めながら、スペインは少し多めに切ったフルーツを少し皿にもって、そこに作り置いてあった焼き菓子を足す。
「お前は…出し過ぎるんだと思うぞ」
しゅんしゅんとお湯がわいた音で火を止め、ヤカンからティーポットに湯を注ぎながらイギリスが苦笑する。
「なんか…すごく露骨だから気恥ずかしくなる」
「えー、なんで~」
「他人としてはわかりやすくて良いけど…家族とかだとなんだろうな…過保護な親馬鹿な感じがする。
子どもの側は…嬉しくないわけではないけど、素直に受け入れるのには勇気いる」
「ええ~~」
もう散々な言われ方にスペインがしょぼ~んと肩を落とすと、それでも…と、イギリスはため息をついた。
「圧倒的な国力や経済の差で家族もどきの関係を買うしか出来ないよりは良いけどな……」
と、言った瞬間気づいたようで、
「いや、別に気にしてるとかじゃないぞっ」
と、フルフル首を横に振るあたりで、思い切り気にしているのがわかってスペインは苦笑した。
0 件のコメント :
コメントを投稿