こうしていつものように切ったり下味をつけたりする作業を終え、そろそろ火を使うため、これも子猫のアーサーになっている時のいつもの待機場所になっているカップを出そうと包丁を置いて手を洗い、食器棚のドアに手をかけたところで、ピンポーンと玄関のベルが鳴り響いた。
と、少し下を向いてポケットの中の恋人に話しかけながら足早に玄関に行き、相手も確認せずにドアを開けたスペインは、そこに立っていた人物を認識して固まった。
「オーラ。イングは?」
と、いきなりつかつかとスペインの横を通り抜けて奥へと足を踏み入れるポルトガルに、スペインは焦ってドアを閉めてそれを追う。
「ちょ、待ってやっ!自分何しにきたん?」
とリビング、キッチンと覗いていくポルトガルに聞くと、ポルトガルはそれには答えずに、飽くまでマイペースに、また
「イング来とらんのか?」
と言いながらスペインを振り返った。
さてどうしたものか…。
スペインはポケットの中の子猫にチラリと視線を落とす。
イギリスが無条件に気を許して甘えられる相手…そんなスペインが切望するポジションを当たり前に手に入れているポルトガル。
出来れば帰って欲しい。
スペインだってクリスマス当日は元子分達や悪友など大勢で過ごすことには依存はないが、それまでとその後の休暇は恋人と二人っきりで過ごしたい。
しかし…下手に嘘をつくと、付き合いが非常に長いため、子供の頃からの様々な弱みを握られているし、後が怖い。
結果……
「見ての通りやけど?」
と、肩をすくめた。明言は避けているが嘘はついていない。
その言葉に黙って再度キッチンを覗くポルトガル。
「なんや、ここちゃうのか…」
と思ってくれたのは、料理が壊滅的なくせに大好きなイギリスが、これだけ色々調理している最中に手を出さないはずもないのに、キッチンにはスペイン以外が作業をしていた気配がないかららしい。
「ほな帰るわ」
と、くるりと反転するポルトガルに内心ほ~っとしながら、スペインは
「自分、いったい何しにきてん?」
と、ついつい口を滑らせる。
言ってしまってから、イギリスの気が変わって人間に戻ってしまったら…と焦ったが、幸い子猫はスペインのエプロンのポケットの中でじっとことの様子を伺っていた。
「クリスマス休暇…」
「はぁ?」
「もう入ってるはずやのに、自宅におらんから迎えに来たんやけどな…」
ああ、ここで二人きりの休暇を邪魔するどころか、連れて行く気だったのか…と、それが当たり前に躊躇なく出来るポルトガルにスペインはイラッと来た。
「クリスマスは家族で過ごすもんやって?」
ああ、自分だって家族のように無条件に寛いで欲しいのに。
そんないらだちをこめて言ったスペインの言葉に対して、もっと苛立った声が返って来たのに、スペインは驚いた。
「……自分喧嘩売っとるん?
あの事やらこの事やらなんやらを、あちこちにバラされたいん?」
感情が出やすいスペインと違って表情には出にくいが、付き合いが長いだけあって、スペインにはポルトガルが非常に不機嫌な事がよくわかる。
なんで俺が怒られなあかんねんっ!と思いつつも、バラされたくない事だらけなので黙っていると、普段の寡黙さが嘘のようにポルトガルが言葉を続けた。
「恋人なんて立場手にいれたからいうて、意識もしてもらえんかった俺への嫌味か?
俺かて別に家族なんちゅうものになりたかったわけやないわ。
裏切らん、何があっても味方や言う事信じさせたったら手に入る思うたら、家族やて…。
他の男に取られるために、色々我慢しとったわけやないわ」
本当に淡々と言うポルトガル。
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