おそらくスペイン以外の人間が聞いたなら、彼が苛立っているなどとは決してわからないだろう。
それでも内容は内容だ。
「うああぁああ~~!!!ポルトガル、すまんっ!俺が悪かったわ。
ちょお落ち着き。茶でも淹れようか?」
ポケットの中の子猫が身を固くしたのを感じて、スペインは慌てた。
スペインには普通にポルトガルの真意はわかった。
たぶんスペインとは真逆に、ポルトガル的には家族的なモノが欲しかったわけではなく、手段として取った対応で家族認定されて、それでも時間がたてば…と、強引な手段に出ずに徐々に…と思っていたら…ということなのだろう。
元々はポルトガルもラテン男だ。
他の…例えばマカオなどにはすぐ手をだしているし、イギリスに対してそれだけ慎重に出たのは、イギリスの環境と性格…それになにより特別に執着を覚えたからなのだろう。
失敗は絶対にしたくない相手だから慎重に…それは容易に想像がつく。
だが、悲観主義者なイギリスのことだ。
さきほどの諸々のポルトガルの発言をそうは取っていない。
自分と家族のような関係を築きたかったわけではないというところで、思考がストップしている気がする。
どないしよ……。
誤解を解きたくない感がひしひしとするわけだが、イギリスの中でのポルトガルの存在は非常に大きい。
「イングラテラがめちゃ大事やったから、家族でとどまらずに、さらに恋人に発展したかったって事やんな?」
ああ…終わった。親分やってもうた。
イングラテラは俺よりポルトガルの方が好きに決まっとるやん。
あいつが実は恋人になりたがってたなんて知ったら、あいつんとこ行ってまうわ。
もう絶望感で目の前が真っ暗になる。
じわりと目尻に熱いものがたまりかけ、前を見ることもできずにうつむくスペインの耳には、しかしポルトガルの吐き捨てるような言葉が転がり込んできた。
「せやからそれは嫌味か?
俺は元々別にイングの家族なんかになりたいわけちゃうわ」
「あのっ」
「イングも居らんようやし、もう帰るわ」
と、それ以上何もいう間を与えず、ポルトガルは足早にスペイン宅をあとにした。
「……あ…」
と、手を伸ばしたまましばし硬直するスペイン。
それから急にハッとして、ポケットの中の子猫を覗きこむ。
そしてヒョイッとその小さな身体を抱き上げると、自分の顔の前に視線があうように持ってきた。
「ちゃうねんで?ようは…ポルトガルは自分の事がめっちゃ好きやから、自分の唯一の恋人になりたかったんや。
あいつにとっては一番大事なんは家族やなくて、恋人なんやで?」
言っていて自分で涙が出てきた。
――ああ、ここで泣くとかほんま親分格好わる~。せめて笑って言えればあいつんとこ行っても少しは格好ええ奴やったとか思い出してくれんのかもしれへんのに…
そう思っても、好きなのだ。
本当に好きな相手にわざわざ振られるネタを提供しているわけだから、仕方ない。
また自分は長い孤独を一人で生きていくのだ。
コートの中から顔を出す温かい小さなぬくもりも、自分が作った料理を美味しそうにたべてくれる笑顔も、全部全部消えてしまう。
それでも…他人に好かれること、嫌われる事を極端に気にする可愛いこの子が一番大事な相手に嫌われていると誤解して地の底まで落ち込むよりは良い。
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