家族と伴侶のクリスマス1

「寒いなぁ。はよう家に帰ろうな」

クリスマス前の買い物。

普段なら両手に荷物を抱えるところだが、今のスペインはコートの襟元からキラキラ光るまんまるのグリーンアイできらびやかな街並みに楽しげな視線を向けている可愛い可愛い恋人を支えてやらねばならないため手が空かない。

なので遊びに来るであろう元子分達をもてなすための大量の食材はリュックにいれて、背中に背負っていた。

そして空いた手で、コートの中に入れて自分の首に巻いたマフラーの端っこで一巻きした上で襟元から顔だけ出している恋人の身体をしっかりと支えている。

片手でお尻のあたりをささえ、胸元に添えた手の指先には、フンフンと小さな鼻息があたって少しくすぐったい。

その感触とほんわり感じる温かさにこみ上げてくる多幸感にクスっと笑いをもらすと、可愛い愛しい恋人は

――まぁお?
と、少し不思議そうにあどけない目で見上げてきた。


ああ…可愛え。

スペインは少し身をかがめるようにして、その可愛らしいふわふわの毛に覆われた小さな頭にちゅっと口づけを落とす。

「なんや幸せやなぁって思うてな」
と言うと、子猫はひょいっと前足をコートから出して、ぱふぱふと自分の胸元を支えるスペインの指先を軽く叩いて、同意するようにもう一度

――まぁお
と鳴いた。


もちろんスペインは子猫を恋人にしているわけではない。
恋人の今の状態が子猫なだけで。

そう、スペインの恋人の魔法国家は、長らく距離があった二人の仲が急接近した時の姿、この子猫の姿で過ごす事が多いのだ。

特に外など人目がある場所で男同士であまりイチャイチャするのを潔しとしないイギリスと、それでもべったりとくっついて過ごしたいスペインとの間の折衷案が、この子猫の姿でべったりとくっついて出かけるというものなのである。


もちろん今日のような買い物のための外出だと、どう考えても人間二人の方が荷物も持てて便利なわけだが、しかし、これならいくら外で思いのまま抱きしめようと口づけを落とそうと怒られる事はない。

荷物を楽に持つために離れるくらいなら、頑張ってなんとか一人で荷物を持ちつつ恋人とべったり出かける方がいい。

恋人は恋人で、この、いつも自分一人で見て回る人間視点とはまた違った子猫視点の街並みが珍しくも楽しいらしいので、一石二鳥だ。


だから二人はそれでもこの格好で出かけるのだ。





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