寮生はプリンセスがお好き4章_3

漆黒の招待状


5月の交流イベント…

それは通常は新寮長と新副寮長の交流を深めるためだけのイベントのはずで、ギルベルトがプリンセスの時は確か山登りだった。

肌を極力露出しない、しかし動きやすい服装でとの指定を受けて、当日に長袖のTシャツにジーンズで待っていたら、いきなり迎えに来るヘリコプター。
それに乗り込み連れて行かれたのは険しい山。

その山頂まで来いと用意された水筒や若干の食料の入ったリュックを背負い、銀狼寮の副寮長の自分と寮長の菊、そして当時の金狼寮の寮長と副寮長で小等部からの悪友フランシスの4人で山頂を目指した。

当然それはいかにプリンセス達をフォローし、負担を軽減させながら山頂にたどり着くかという、交流イベントという名の寮長の耐久イベントなのだが、ギルベルトの時は日々鍛えているギルベルトよりも菊の方がよほど大変そうで、目に見えてバテていく菊をおぶってやろうか?と申し出たのだが固辞されたので、せめてもと荷物を持ってやったのも良い思い出だ。

もちろんその隣では汗臭い事は嫌いだと明言する日傘をさしたフランシスを金狼寮の寮長が背負って歩いていたのは言うまでもない。


そんな記憶があったのでギルベルトはこの日のために歩きやすい靴や着なれたジャージなどを用意していたのだが、前々日に届けられたのは1mほどの艶のある真っ黒な箱。

その上には紅い薔薇の蝋封がされている白の封筒が添えてある。

まずは封筒を愛用の銀のペーパーナイフで丁寧に開けてみれば、出て来たのは黒字に金の薔薇の縁取りのカード。

【ギルベルト・バイルシュミット銀狼寮寮長殿

このたび当屋敷に置いて新寮長および新副寮長の歓迎の宴を開催いたします。
お手数ですがお送りいたしました衣装をご着用の上、下記の場所まで足をお運び頂ければと思います。

なお、様々な点で公平性、安全性を期するため、今回記載しました時間と場所に尽きましては他言無用に願います。

日時:5922時  場所:当校東館横、大聖堂前
私立シャマシューク学園理事長 プレジデント.E


……………
明らかに自分が副寮長であった時とは様相が違う。

もともと知らされていた時間は13時だったのだが、わざわざ本人達にしか知らされない形での時間変更。

色々な面で何か腑に落ちない…というか、ひっかかる。


とにかく少しでも情報を…と、とりあえず手を伸ばせば届く範囲でそれを拾おうと、ギルベルトは一緒に送られてきた黒い箱を丁寧に開けてみた。

中に入っていたのは艶やかな地の真っ黒なスーツ…は良いとして、そのスーツの上に添えてあるのは同色の仮面。

それは顔の上半分が隠れる黒地に細かな金の飾りがほどこしてあるもので、仮面舞踏会などに使われそうなものだ。

カードといい衣装といい、クラシカル…と言えば聞こえはいいが、時代がかってどこか薄暗い雰囲気である。

昨年は確か南の島へ連れ出されての遠泳島めぐりだったと聞いているし、一昨年もその前もプリンセスをフォローしながらの寮長の体力イベントと言って良いものだったため、寮長の気を引き締めるためのイベント…という認識を持っていたのだが、今年は何か違うのだろうか。

そもそも、いきなりなんの前触れもなしに理事長の交代劇があったのも気になる。

そう言えば…その新理事長は未だ名も顔も明かしていない。
ただプレジデント.Eと名乗るのみ。
色々が得体のしれない人物だ。

そう思って見ると、送られてきたこの仮面もどこか怪しげに見えてくる。

スーツの胸ポケットを飾る毒々しいまでに真っ赤なシルクの薔薇の花にどこか不吉なものを感じてギルベルトは考え込む。

何か…護身になるようなものを携帯した方が良いだろうか…。

――いや…考えすぎだろ、俺様。

たぶん初めて全面的に守るべき相手を持って自分は神経質になっているのだ…と、ギルベルトは軽く首を横に振った。

校外では確かに良家の子弟だけあってあまり無防備にしていると危険な目にあうが、これは飽くまで学校の行事の一つに過ぎないのだ。
そこまでの危険などありえない。

そう思い直して用心深く手にとって確認していた仮面を元に戻して箱を閉め、当日までは…と、それを遠ざけるように目につかないクローゼットの奥へとしまい込んだ。



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