ぽんっ!と煙と共に着いたのはスペインの部屋のリビング。
日付が変わってハローウィンは終わってしまったらしく、妖精達の姿は光にしか見えなくなってしまったが、部屋中をキラキラと飛んでいるのは認識できる。
確かに自分の腕にある重みに視線を落としてみれば、真っ白でふっくらした小さな手がぎゅぅっとスペインの褐色の指を掴んでいるのが見える。
落ち着いた金色の髪はまだぽわぽわとしていて、イギリスとそっくりなまあるい大きな子猫のような目は春風に揺れる新緑のような綺麗な明るい緑色。
(あぅ~?)
まだ焦点の合わないぼ~っとした視線で見上げてくる様子は、もう天使と見まがうばかりだ。
あかんっ…うちの子天使や天使っ!!
「全然変わった容姿ちゃうやん。
あ、変わっとるか。天使にしか見えんほど可愛えし。
人間がこないに可愛えわけないわな。確かに普通やない。
この愛らしさ、天上のもんとしか思えんもんな」
思い切り真面目な顔で断言するスペインにイギリスが大きくため息をつく。
「耳を見ろ、耳…」
と言われてみれば、ちいちゃな淡いピンク色の耳。
「そっちじゃないっ!頭の上の方だっ!」
と言われ、さらに視線を上に。
「うっあああ~~!!!なんなん?!!なんなんこれっ?!!
垂れ耳めっちゃ可愛えっ!!!もううちの子世界一やんなっ?!!!」
ほわほわの金色の毛の中からぴょこんと出ている耳はイギリスがアーサーだった時のように垂れている。
イギリスが抱いているスペイン似の子の方の猫耳はピンとした立ち耳だ。
小さな手をぎゅっと握りしめてスヨスヨ眠っているが、時折良い夢でも見ているのかふにゃあっと笑う。
そうやって笑うと出来るえくぼをイギリスが指先でツンツンとつつくと、歯のない口が追いかけてきて、指をちゅうちゅう吸い始めた。
「…可愛いな……」
と、こちらもすっかり親馬鹿スイッチが入っているが、スペインよりは若干冷静だ。
「この耳だとシッターも雇えないから育てるのは俺の家(英国)かな」
スペインよりもさらに茶色がかった毛色の耳を優しく撫でながらそういうが、それにはスペインが涙の抗議だ。
「いやや~~!!!
パドレだけ別の生活なんてあかんっ!!ぜ~~ったいにあかんっ!!
家族は皆一緒に暮らさんとっ!!」
「…誰がパドレだ……」
「え~?だって親分がいれて出来たんやんっ」
「うあああ~~~!!!お前なに言いやがるっ!!!」
と、その大声に驚いたのか、スペインの手の中のプチアーサーがぴえぇぇ~とか細い泣き声をあげる。
その声にすら
「うあ~泣き声ちっちゃぁ~。生まれたてって泣き声もこんなちっちゃいんやねぇ。
よしよし、怖ないで~。パドレが守ったるからな。泣き止んだって?」
と、感動しつつもスペインはふっくらしたバラ色の頬にちゅっちゅっと口づけを落とす。
「ええ子にしとったのに堪忍なぁ。
せやけど、ここで頑張っとかんと、パドレ、自分だけマドレや可愛え自分の子らと離れて暮らさなあかんくなんねん。
そんなんなったら寂しすぎて死んでまうわ」
と、赤ん坊をあやしながら、今度は自分の方が目に涙をためはじめた。
そんなスペインを、赤ん坊は大きな目で見上げながら、あうあうと小さな小さなモミジの手を伸ばす。
その手を取って子どものようにまた泣くスペインに、さすがにイギリスも心が痛んだ。
本当は普段スペインに住んで、二人とも出かけないといけない時だけイギリスに…という生活が一番いいのかもしれないが、イギリスも子猫時代に休みを取りすぎて早々スペインで生活というわけにもいかないし、赤ん坊の耳を考えたら一般人のいる公共機関を使うのもどうかと思う。
(なら精霊の道を開いてあげるっ)
と、そこで申し出たのは、またあの妖精だった。
(この家は緑に囲まれているから…精霊の道を開くのも可能だわ)
ああ、その手があったか…。
と、イギリスはホッと胸をなでおろした。
これもスペインが妖精さん達の心をつかんだからこそ協力してもらえるわけだが、妖精達の力をもってすれば、緑に囲まれたこの家ならば、イギリスの自宅の地下と通路をつなげることは確かに可能なのだ。
こうして妖精さん達の祝福の元、それぞれに孤独を抱えて育った二人はそれからは精霊界で生まれた赤ん坊たちと4人で、孤独など感じる暇も作れないほど、あわただしくも温かい生活を送る事になる。
そして…やがて子供たちが大きくなって自らの耳を隠せるようになった頃にお披露目をした国々の間では、色々な理由から子どもが生まれた経緯を聞かれることになるが、その時スペインは必ず、ぱちりんとウィンクをして言うのだった。
「すべては妖精さんのおかげやでっ」
と。
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