寮生はプリンセスがお好き
──アルフレッド・F・ジョーンズ!貴様は何を逃げてるんだっ!! 憧れの相手から優しく励まされたらアルフレッドも立ち直るのかもしれない… そんな期待を胸に彼の籠っている部屋に案内した香の目の前でギルベルトの口から出たのは耳がビリビリするくらいデカい声での叱責だった。
──香、銀狼のカイザーが来たけど… ──通して、プリーズ!!
──今日は食ってもOKだけど? ──ううん、いいよ…食べたくない…
「とりあえず…現状、資金も人材も心配なしで今後も王財閥に超恩売れるってお得じゃね?」 香がそう持ち掛けているのはギルベルトではない。
──ディックの実家を潰すのは避けたいあるな… 香が一足先に入手してきた映像を見終わってため息交じりに呟く王耀。 今回の騒動は香の責任の範囲外だ。 むしろ協力した特権で他に出回る前に映像を入手出来たことは褒めてもいい。
数日後…銀狼寮のダイニングでは古今東西のご馳走が並んだ戦勝祝いのパーティーが開かれていた。
悲報…心配をしながら慌てて帰還したら、プリンセスが黒幕の手下と談笑中だった。 いや、別に相手に洗脳されているとかではなさそうだったので良いのだが、とりあえず相手は女だから優しい言い方をしてやれと言われるともにょる。
それからは怒涛だった。 まず画像を見終わってすぐくらいにギルベルトが血相を変えて帰ってきた。
──えっと…カイザーは特にプリンセスについて触れてませんっ そう言っていきなり持参のタブレットで動画を流したのは、本当に存在感がなさ過ぎてそこに居ることも忘れそうな銀狼寮の寮生だった。
「…とりあえずお話を承ります。 こんな時間に訪ねて見えたのはどういうご用件ででしょうか?」
想像とは微妙に違う… アンは戸惑っていた。 てっきり周りの男どもにメソメソべたべたするしか能がないやからかと思っていたが、銀狼寮のプリンセスは凛とした佇まいで落ち着いていてどこか気品のある、寮長に継ぐ第二の銀狼寮の主だった。
うん?これは何が起こっているのだろう…と、目の前の光景の意外さにアーサーは小首をかしげる。
──え?な、なにっ?!! いきなり聞こえて来た悲鳴の声は高くて、しかし声変わり前の少年のそれとは明らかに違う。 つまり、この学園にいるたった一人の女性、新任の女性教師のものと思われる。
その夜、アーサーはモブ三銃士の一人のマイクと共にルートの部屋で過ごしていた。 いつもなら当然自室にいる時間だが、今日はギルベルトが金竜のプリンセスに助力を頼まれて金竜を混乱に陥れている金竜の寮長ロディの征伐に行っているので、一人は危ないとギルベルトからルートに預けられているのである。
たとえ逆ハーどころか攻略対象者全員に逃げられようと、このままでは終われないっ! 絶対に…絶対に一矢は報いるっ!!
ほとんどホラーだった。 綺麗で可愛く優し気なだけに、余計にこの状況での満面の笑みが恐ろしい。 怯えるアンを前にフェリシアーノはしばらくニコニコしていたが、 ──話すこと…ないみたいだね? と言うと、華奢な手で銀の呼び鈴をチリンチリンと鳴らした。 それで開いたドアから入ってきた人物...
「お待たせ。 ごめんね、ギルベルト兄ちゃんとの約束でアーサーは部外者に会わせられないから、お話はよければ俺が聞くよ?」 待たされたのはほんの5分ほどだったが、ギルベルトが金竜から戻ってくるまでという時間が区切られているアンにとっては非常に長く感じた時間。 しかもそれだけ待たされて...
アン・マクレガーは正直後悔していた。 教職員宿舎から銀狼寮までは遠い。 もちろん道は伸びているのだから迷子になることはないのだが、それでも暗い道を一人で移動するのはやや怖い。
悔しいがその時の金虎の寮長は実に凛々しくカッコよかった。 金色の虎の刺繍のマントをたなびかせ、剣を掲げて寮生達に号令を下している姿はギルベルトの目から見ても本当にカッコいい。
そんな風に一瞬ギルベルトが考え込んだのを勘違いしたのか、 「馬鹿が~! 俺が孤立したかとでも思ったかっ!! 操られるだけ操られた挙句にシャルルのガキに寝返った馬鹿どもと違って俺は組織に買われているからなっ! ピンチになればちゃんと援軍が来るんだよっ!!」 と急に元気になったロディ...