寮生はプリンセスがお好き10章35_葛藤と覚悟

そんな風に一瞬ギルベルトが考え込んだのを勘違いしたのか、
「馬鹿が~!
俺が孤立したかとでも思ったかっ!!
操られるだけ操られた挙句にシャルルのガキに寝返った馬鹿どもと違って俺は組織に買われているからなっ!
ピンチになればちゃんと援軍が来るんだよっ!!」
と急に元気になったロディが隙をついて金狼の方へと駆け出していく。

しかしギルベルトが
──あ、馬鹿っ!!危ねえっ!!!
と、それは半分勘で半分確信だったが、脊髄反射でロディに飛びついて覆いかぶされば、頭の上すれすれを弾丸がかすめていった。

──えっ…?と驚いて目をみはるロディ。

それにギルベルトは思いがけず敵のただなかに身をさらす結果になったことに舌打ちをしながらも、
──したたかな大人が失敗をフォローしてくれるわけねえだろうがっ!口封じされんのがオチだっ!
と我ながら馬鹿みたいに親切だと思うが今の状況を説明してやった。

──…そ、そんな……
と呆然とするロディのメンタルまではどうにかしてやる義理はない。

ハチの巣にされるまえに身を隠すもののないこの場から一刻も早く移動しないとと、彼にしてはかなり焦って移動できるように起き上がろうとするが、これは一発二発はくらうのを覚悟しなければ…と思った。

少し離れた木々の中に隠れていた寮生が数名出て来ようとするのに
──総員そのまま待機っ!!
と命じつつ、動けないロディの首根っこを掴むとなんとか活路を開くため状況をより細かく把握しようと注意を向ける。

おそらく金狼の中の刺客のリン・ヤン以外にも自主的にやっているのかリンがアンと同様の薬物で洗脳しているのかかなりの数の金狼寮生が前方に居て、そのうち数名はやはり銃を持って構えている。

一瞬、最悪ロディを盾にして身を守るか…と言う考えが脳内をかすめるが、バイルシュミット家の嫡男、そして銀狼寮の寮長として、その方法だけはダメだろうと即もう一人の自分が否定した。

命のために誇りを捨てるな…と言うのは、大切なプリンセスが守ってくれている、ギルベルトにとって世界で一番慕わしくも安全な自分達の巣を出てくる時に、自分自身が言った言葉だ。

それを違えたなら、もう自分はバイルシュミットの名も銀狼寮の寮生の名も名乗る資格はないと思うし、そのくらいならそれらの誇りを背負って死んだ方がマシだと思う。

たとえハチの巣になって息絶えたとしても、ギルベルト・バイルシュミットとして、そして銀狼寮の寮長として、大切な大切な自分達の城に戻るのだ。

そう決意をしてなんとかロディを抱えて身を起こそうとした瞬間である。

──総員…構えろっ!!……撃てっ!!!
と、後方から声がした。

振り返らなくても赤々と灯る炎を感じる。
そして号令をかけるその声は力強くも頼もしい。

──あ~…なんかいいとこ持ってくよな、パイセン
とギルベルトは諸々に気づいて思わず肩の力を抜いて苦笑した。









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