想像とは微妙に違う…
アンは戸惑っていた。
てっきり周りの男どもにメソメソべたべたするしか能がないやからかと思っていたが、銀狼寮のプリンセスは凛とした佇まいで落ち着いていてどこか気品のある、寮長に継ぐ第二の銀狼寮の主だった。
そして…それは資料ではわからない声。
男としては高く女としては少し低めなアルトの声。
ただ話しているだけでも耳障りが良く、声変わり前の少年で結成された某合唱団にでも入れそうな美しい声だ。
それが好意的な音色を持ってアンに話しかけてくる。
「…これはギル…この銀狼寮のカイザーがお気に入りの茶葉なんです。
レディのお口に合えば良いですが…」
そう言いつつ品の良い白磁のカップに注がれた褐色の液体。
──どうぞ?
と笑顔で言われれば、こういう状況でやや恐ろしく思いつつも飲まないという選択肢はない。
──ありがとう…
と礼を言ってカップを手に取れば、顔に近づけただけで芳しい香りが鼻腔をくすぐる。
それをさらに口に含んでみれば、明らかにアンが今まで飲んできた安い紅茶と違う高級な紅茶の味がした。
…美味しい……
と思わず漏れる声。
それに
──良かった…
とニコリと浮かべる笑みも麗しい。
まだ成長しきっていない、男とも女とも言い難い姿は、今までアンが見ていた性的に好ましい標的かあるいは自分の邪魔をする敵かというものに分類するのが難しくて、例えるなら子犬であるとか子猫であるとか、そんな自分とは完全に異種の可愛らしいもののような相手に好意的な態度をとられると、なんだか流されそうになってしまう。
そうしてしばし色々を忘れてボ~っとしていたアンだが、プリンセスが紅茶を淹れ終わってソファに腰を落ち着けると、まるでそれを守るようにささっとその左右に移動するフェリシアーノと香の動きにハッとした。
危ないっ!騙されるところだったっ。
まるで小動物のように愛らしく無害に見えたとしても、彼は敵なのだ。
そうだ。そう見えないからこそ手強く、用心しなければならない。
まるで無害に見える彼を相手に、自分がいかに彼からひどい扱いをうけているのか、それを証明しなければならないのだ。
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