寮生はプリンセスがお好き10章38_追い詰められる魔女

「お待たせ。
ごめんね、ギルベルト兄ちゃんとの約束でアーサーは部外者に会わせられないから、お話はよければ俺が聞くよ?」

待たされたのはほんの5分ほどだったが、ギルベルトが金竜から戻ってくるまでという時間が区切られているアンにとっては非常に長く感じた時間。
しかもそれだけ待たされて出てきたのは銀狼のプリンセスではなく、この寮内を我が物顔で闊歩している銀竜寮のプリンセスだ。

予想外の対応に少し戸惑うアンだが、考えてみれば元々自分が直接対決をする気はなかったのだからこの状況はむしろちょうどいい。
銀竜のプリンセスを洗脳して銀狼のプリンセスを口撃させればいいのである。


正直に言えば目の前に居る銀竜のプリンセスもあまり好きなタイプではない。
優し気な顔立ちにふわりと柔らかそうな明るい茶の髪。
くるんと一筋跳ねた髪。
すごく美人というわけではないが愛らしく、どこか男性の庇護欲をそそるタイプだと思う。

まあ…そういう立ち位置に立ちたいアンとしては気があうわけはないのは当然だろう。

それでも銀狼寮のプリンセスのように憎しみを感じるレベルではないので我慢はできる。
にこりと自分的に親しみのこもった可愛いと思っている笑みを浮かべて
「突然訪ねて来たのに話を聞いてくれてありがとう」
と言って薬がよく効くようにと少し近づけば、彼はニコニコと邪気のない笑顔のまま
「俺なら暴言も流せるしね」
と、何か恐ろしいことを口にした。

え??
と驚くアン。

そんなアンの様子に構うことなく、銀竜のプリンセス、フェリシアーノは
「俺には洗脳は効かないよ?」
と核心をつく発言をした。

「え?え??な、なんのことかしら??」
ととぼけつつも、アンは今更ながらこの銀狼寮にはアンとJSコーポレーションのつながりを知るツヴィングリ社の社長であるバッシュ・ツヴィングリが居るということを思いだす。

そう、つまりはJSコーポレーションの洗脳薬のことはバレていると思うのが正しい。

青ざめるアン。
その心の内を見透かしたように、フェリシアーノは
「すでにね、ツヴィングリ社は洗脳を無効化する薬を開発済みで、この銀狼寮の寮生はもちろん、俺達、銀竜寮生全員も服用してるし、他の寮にも徐々に配布してるからこれからは洗脳は出来ないと思った方がいいよ?」
とやはり笑顔でそう口にした。

優し気な顔立ちに優し気な笑みなのにどこか冷ややかで恐ろしい。
確かに笑顔なのに目が笑っていない。

気が弱くて優しい平和主義者…JSコーポレーションから与えられたフェリシアーノの情報ではそうなっていたのに、目の前に居る華奢な少年は、どこか恐ろしい悪魔であるとか、巨悪の組織の黒幕であるとか、そんな雰囲気を醸し出している気がする。

「ち、違うのっ!私はJSコーポレーションの取引先の新人社員でJSコーポレーションから脅されて依頼を断れなくて…っ…」

ああ、何故こんなタイミングで無効化薬が開発されるのよっ!!と内心苛立ち、そして焦るが、とにかくなんとか矛先をそらさなくては…と、ユーシスがカインについたらしい嘘を思い出して口にするも、なんと
「経緯なんて関係ないよ。
やったことが全てだよ」
とフェリシアーノにピシャリとシャットされた。

そしてその後に続く言葉…
「俺ね、この学園の創始者の孫なんだ。
爺ちゃんには孫はいっぱいいるし、みんな俺のことなんて気にしてないけどね。
でも俺は爺ちゃんが色々考えて一所懸命作ったこの学園を踏みにじる相手を許さない程度には爺ちゃんの孫っていうことを忘れてはいないんだ」

ひっ…とそのフェリシアーノの飽くまで笑顔で紡がれる断罪の言葉にアンは小さな悲鳴をあげる。

──それで…?
──…え?
──やだなぁ。言ったでしょ?俺が話を聞くって。
──……
──……
──……
──学園に害を成そうとしたアン・マクレガーの最期の弁明、ちゃんと聞くからね?


ひいぃぃぃーーー!!!!!

低い…低い、静かな声でそう言って微笑む銀竜の姫…そしてこの学園の秘かな権力者の言葉に、アンは初めてこの仕事を受けたことを後悔したのだった。












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