寮生はプリンセスがお好き10章37_憎しみ

アン・マクレガーは正直後悔していた。

教職員宿舎から銀狼寮までは遠い。
もちろん道は伸びているのだから迷子になることはないのだが、それでも暗い道を一人で移動するのはやや怖い。

洗脳済みの学生の一人や二人呼び出せば良かった…と今更ながら思うが、今から呼び出そうにも教職員宿舎から学生寮へ向かう途中ということ以外、現在地を伝えることが出来ない。

それでも校舎にほど近い宿舎から学生寮の立ち並ぶ一帯までは一本道なので呼べば来るだろうが、ユーシス曰く今、ギルベルトが金竜のプリンセスと共に金竜に向かっている間に銀狼寮までたどり着かねばならないため、いつになるともわからない護衛の学生が駆けつけてくるまで待つ時間はないのである。

男子生徒に囲まれて逆ハー予定だった自分がこんな風に一人ぼっちで夜の闇に怯えながら歩いているなんて本当に納得がいかない。
それもこれもあの女に似た銀狼寮のプリンセスのせいだ!と、アンは心細さを怒りに転換して歩き続ける。

そうでもしなければ心が折れそうだ。

そもそもがアンの恋人になる予定のあのギルベルトにかしづかれているだけじゃなく、大企業ツヴィングリ社の社長の妹の親友だなんて、どれだけ設定を盛っているんだ!と思う。

おかげで正々堂々と追い落とすことができなくてこんなことになっているのだから腹がたつのも当然だ。

薬物を使っての洗脳が正々堂々かと突っ込まれれば何も言えないわけなのだが、今この場にはアンの他に誰もいないので突っ込みが入ることはなく、アンの脳内では卑怯なのは多くの人間に守られてアンがやろうとしていることを不条理に妨害している銀狼寮のプリンセスの方なのである。

こうして半ば怯えつつも苛立ちながら、アンはなんとか銀狼寮の前までたどり着いた。
そして呼び鈴を押すと開く門。

それを開けに来たのは何故か銀狼寮の寮生ではなく、こんな時間だと言うのに何故かキチっと着こんでいる制服についた寮章は銀の竜。

え?え?なに??
と混乱しながら思うものの、ここまで来て引き返すと言う選択肢はさすがにない。
なので銀狼寮のプリンセスに面会を申し込むと、寮内には入れてもらえた。

…が、銀狼寮の頑丈なドアを開いてすぐの所にある大きな広間には、確かに銀狼寮の寮生は居ないがその代わりに大勢の銀竜の寮生であふれかえっていた。

しかも想定外の出来事はそれだけではない。

アンは銀狼寮のプリンセスに身の程を知るように言い渡すのは自分ではなく出先で誰かを洗脳してやらせようと思っていたため、JSコーポレーションから渡された薬はたっぷりつけてきたのだが、誰も昼間がそうであったようにアンに対して恋情を抱いたりする様子が欠片もなく、むしろ冷ややかな目で彼女を見ている。

これはまずい。
味方が居ない。
そうなるとJSコーポレーションの担当からは止められていたが自分自身が手を下すしかなくなる。
と、ここにきてアンもさすがに思うわけなのだが、それでもプリンセスに対する憎しみの方が勝った。
あるいは自分も色々を失うかもしれないが、絶対に相手も傷つけてやる!
アンはそう決意して、取り次ぎを待った。











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