──香、銀狼のカイザーが来たけど…
──通して、プリーズ!!
──丁重にっ!王大人んとこから持ってきた高級菓子と茶を出せっ!!
と、香にしては必死な様子で言うと、
──もういつでも出せるように用意してるぜ。
と、心得た同級生がワゴンを押してくる。
しかしワクワクしながら待っていた香の前に姿を現したのはただ一人、銀狼寮の寮長、ギルベルトのみだった。
…え?…と固まる香。
それに気づいてか気づかないでか…いや、おそらく後者なのだろう。
ギルベルトは案内してきた金狼寮の寮生に勧められるまま礼を言って香の正面に座った。
そして苦笑。
──なんだよ、俺様じゃ不満か?
と言う声は香の落胆をも感じ取っていて苦笑交じりだが、別に怒っているとか突き放しているとか言う様子ではない。
──いや…不満っつ~か…ゴリプリなんとかできんのは銀狼プリだけかなと思ったから…
隠しても仕方がない。
この程度の本音を言って壊れるような友情ならとっくに破綻している。
というか、本音を言って終わる程度の関係ならもうそれは友情じゃないとはっきり突きつけられた方がいい。
そんなことを思うくらいには香は疲れていた。
そんな香の疲労も悲哀も全てわかっていると言わんばかりに、ギルベルトは笑う。
「あ~、安心しろ。
ゴリプリをなんとか立ち直らせるにはお姫さんより俺様の方が適役だから」
「マジ?」
そう言われて思い起こせば、王から昔アルフレッドは暴漢に襲われた時にギルベルトに助けられたことがあって、彼に憧れていると聞いたことがある気はした。
だが、アルフレッド的にはその時のギルベルトは正義のヒーローだったのだろうし、そんな正義の味方を前に自分は悪の組織の一員だったと思っているアルが立ち直るのだろうか…
「あいつがな、お姫さんで居たいなら、うちのお姫さんによしよししてもらやぁ慰められるかもしれねえけどな?
あいつが目指すのはヒーローで…誰かを助けられるような正義の味方なんだろ?
なら、プリンセスよりもカイザーの方が道を示してやれるから」
正義の味方、ヒーロー…その言葉をアルが口にするとなんだか子どもっぽいというか、幼稚なイメージを持ってしまっていたのだが、ギルベルトがそれを口にすると、なんだか余裕のある大人な印象を与えられてしまうのはなんでなのだろうか…と香は目をぱちくりする。
「まあ…俺的にはゴリプリが柄にもない過剰すぎるダイエットやめてくれればどうでもいいんだけど…」
同じカイザーでも自分にはない圧倒的な強者の風格。
それを持って助けてくれると言うなら、方法なんかどうでも良いから丸投げをしてしまおう。
でも出来れば後学のために……
──それって見学OKな感じ?
と聞けば、
──おう!別に企業秘密とかじゃねえしなっ
と笑うギルベルト。
そこで気づく。
普段はそういつもいつも笑顔な人間じゃなく、どちらかと言うと厳しい人間なわけなのだが、今日のギルベルトは笑顔が多い。
それにホッとして色々投げ出している自分。
ああ、そうか。
物理で強く色々出来るハード面も大切だが、正義の味方は相手が弱っている時にこうして相手が頼りやすいように気遣ってくれるソフト面も優れて初めて成れるものなんだか…と、香はその時改めて思った。
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