寮生はプリンセスがお好き10章54_軍曹の本領

──アルフレッド・F・ジョーンズ!貴様は何を逃げてるんだっ!!

憧れの相手から優しく励まされたらアルフレッドも立ち直るのかもしれない…
そんな期待を胸に彼の籠っている部屋に案内した香の目の前でギルベルトの口から出たのは耳がビリビリするくらいデカい声での叱責だった。

え?え?ええっ?!!
と思ったのは香だけではない。
ベッドに突っ伏して泣いていたアルフレッドも驚いて飛び起きた。

そんな二人の反応も全く意に介することなく、ギルベルトは鬼軍曹のあだ名に相応しく、ドン!と足を肩幅ほどに開き腕組みをして、きつい顔にさらにきつく見える表情を浮かべてアルフレッドを見下ろしている。

香はハラハラとした視線をギルベルトに向けるが、依頼したからには余計な口を挟まず見守るべきだろうと、グッと我慢してギルベルトの次の言葉を待った。

アルフレッドはと言うと、驚きすぎて反応も出来ずに無言のままびっくり眼で固まっている。

「今貴様が置かれている状況を理解しているのかっ?!
今っ!そう、今だっ!
悪の巣窟となり果てた実家に対して権限を持てる立場にある貴様がそれを放置しているのは何故だっ?!
たとえそれが近い親族、叔母であろうと、悪は悪だっ!
大きな力を悪用するようなら、正当な跡取りである貴様がそれを廃して立ち上がりっ、ジョーンズ財閥の強大な力を正しい方向へと導く役を担うべきだろうっ!!
アルフレッド・F・ジョーンズっ!!貴様は何故成すべきことをしないんだっ!!
貴様は巨悪に怯えて王の庇護の下でベッドにもぐりこんで泣き寝入りをするような臆病な男なのかっ?!」

うっわぁぁ~~~と香は心のうちで拍手をしつつも苦笑する。
そうだ、そうだった。
整った容姿、優れた頭脳と身体能力…それ以上にギルベルトを上に押し上げているものはこの演説の能力だった。

宥めても慰めてもダメだったアルフレッドが、いつのまにやらキラキラした目でギルベルトを見上げている。

「違うっ!俺は臆病者なんかじゃないっ!!
叔母さんが実家の力を悪いことに使う気なら、俺は断固として戦うんだぞっ!!
俺はジョーンズ家の嫡男、ディック・F・ジョーンズの唯一の息子、アルフレッド・F・ジョーンズなんだぞっ!」
と、もうヒーローショーで将来はヒーローになるんだ!とはしゃぐ子どものようなノリでそういうアルフレッドに、ギルベルトが我が意を得たりとばかりに
「そうだろうっ!
なにしろ貴様は俺様が今回信頼をおく仲間として選んだ金狼寮の副寮長、そして将来寮長を目指す男なんだからなっ!
こんなところで引きこもっている暇があったらさっさと王に連絡して、叔母夫婦を廃し家督を継ぐ準備をするよう依頼しろっ。
あと、速やかに動くためには体調管理は何より大切だからなっ。
バランスの良い食事を摂って適度に体を動かし、体を良い状態に保っておけっ」
と頷くと、アルフレッドはさきほどまで泣いていたのが嘘のように
「サーイエッサーっ!!」
と、キラキラした目で敬礼した。


それからは早かった。

ジョーンズ家の総帥の交代に関しては世界中のOBの後押しで速やかに行われることになった。
一時はジョーンズ財閥自体が潰されるかと言う勢いだったが、アジアに深く広く根を張る王財閥の総帥王耀が後見人であるということ、諸悪の根源である現総帥夫妻が敵対視していてほぼ接触がないこと、そして今回学園を救った一番の功労者でシャマシュークの英雄と言われるようになったギルベルトがその身分を保証したことが大きく影響した。

とはいってもアルフレッド自身は財閥の運営については何も知らない状態なので、実務は王財閥とバイルシュミット家から目付け役を出し、あとは元のジョーンズ家の実務の責任者と協力して支えていくことに決定する。

これでとりあえずアルフレッドに対する危険はだいぶ去ったとみて良いだろう。

あとは…今回アルフレッドの叔母の依頼に応えて動いたシャマシューク学園内部の理事たちに潜む敵の粛清だが、こちらはまた別の話である。

一つは取り除かれた不穏の種だが、完全な平和まではまだ遠い。


── 10章完 ──


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