──えっと…カイザーは特にプリンセスについて触れてませんっ
そう言っていきなり持参のタブレットで動画を流したのは、本当に存在感がなさ過ぎてそこに居ることも忘れそうな銀狼寮の寮生だった。
と、アンのみならず、そこにいる全員がその映像に目を丸くする。
──あ、あたしね、新任教師のアン・マクレガーっ……
──なり立てというので一つアドバイスをしておく。
──わぁ~!嬉しいわっ!
──まず教師は職業だ。対価を得ている以上……
どこかで見て聞いたようなやりとりにアンは青ざめた。
そう、これはギルベルトとの初対面の時のやりとりである。
何故こんなものが映像に残っている?いつのまに??
と、アンは当然のこと、それを流している当人のモブ三銃士の一人であるマイク以外は全員が思った。
「…ああ……これを見る限りだと、ギルは最初からレディに対して良い印象を持っていないと思われても仕方がないな…」
と、アーサーがやや見当はずれの感想を述べれば、そこはフェリシアーノが卒なく
「えっとね、これはうちのルークが俺のお弁当持ったままアンを食堂に案内しちゃった場面だからね。
普通カイザーがプリンセス放置するとは思わないでしょ?
だからアンが引き留めたんだと勘違いしたんだと思うよ?
その節は巻き込んでごめんね?」
とギルベルトの行動に対してフォローをいれる。
「あ~、あの時か。
おかげで俺はフェリと一緒出来て楽しかったけど」
と、アーサーは簡単にごまかされつつにっこり。
それに対してフェリシアーノもさきほどのアンと二人きりだった時の黒さなど微塵も見せずにふわふわと優しいプリンセスのにっこり笑顔で返した。
こうして二人で微笑み合っているのを見るとまるで楽園で暮らす天使達のようで、さきほどの圧が嘘のようだとアンは空恐ろしくなる。
そんな風に唖然とするアンの正面で香が
──銀狼の寮生、マジすげえ
とため息をもらすと、マイクは当たり前に
「我々はカイザーとプリンセスが不当に不利益をもたらされないため日々気を付けていますからっ!
あとは…お二人の素晴らしい姿を極力映像に残して啓蒙活動…ですか。
ベストプリンセスは我が寮以外に譲る気はありませんっ」
と胸を張る。
「この映像はプリンセスをお守りするカイザーがいかに素晴らしいか、そしていかにプリンセスを想っていらっしゃるか…そして外見内面共に非の打ち所がない素晴らしいカイザーがそこまで大切にしていらっしゃるプリンセスがいかに素晴らしいかを学園中に知らしめるための映像を作るために日々残している画像の一つです!」
熱く語るマイク。
そこでアンは初めてこの寮に近づいた自分を後悔した。
ダメだ、ここは近づいてはいけない場所だった。
他の寮の人間にすら守られた場所で、世界一の軍事会社がバックについていて…それだけでもヤバいのに、寮生達が全員ヤバい宗教の狂信者だ…。
──うん…ここはね、学園一手を出したら終わる寮だからね?
と、そんなアンの顔色に気づいて、紅茶を淹れ直すふりをして傍に来たフェリシアーノがアンにだけ聞こえるような小さな声で笑みと共にそう囁いた。
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