それからは怒涛だった。
まず画像を見終わってすぐくらいにギルベルトが血相を変えて帰ってきた。
と、叫びながら息を切らして部屋に入ってくるギルベルトは、そこに居るアンをものすごい目で睨む。
綺麗な紅い目は冷たい怒りに燃えていて、視線だけで射殺されると思うほどだ。
──うちのプリンセスに何しに来やがった…
という声は低く殺意さえ感じる。
なまじ整い過ぎるほど整った容姿の美しい男だけに怒った顔は容赦なく恐ろしい。
こんなことなら大人しくJSコーポレーションの担当の言うことを聞いてロディあたりに適度にちやほやされて我慢しておくんだった。
そう後悔し始めたアンだったが、その後、意外な展開になる。
──ギル…レディ相手にそういう言い方はダメだと思う…
と、いきなりアンをかばったのは、なんと銀狼寮のプリンセスだった。
しかも自分が優位で可哀そうな奴だからではなく、相手はか弱い女性なのだから…と言う言い方で…。
え?え?と混乱するアン。
自分の方は勝手にライバル扱いをしていたわけなのだが、プリンセスの方はと言うと、相手は自分達と違って優しく接してあげなければいけないレディなのだと主張するのだ。
「自分をはっきり持っていることはギルの素晴らしいところだと思うけど…俺達と違って相手はデリケートなレディなんだから、言い方を考えてあげないと怖がらせてしまうと思う」
などと言う。
そこでアンは思った。
失敗した。
これはまず味方につけて抱え込んでおくべき人材だった。
おそらくなまじプリンセスと言う存在がいるので女であるというだけで優遇はされないこの学園で、銀狼寮のプリンセスはプリンセスと言いつつ実はプリンスで、女性には優しく親切にしなければならないと思っている数少ない権力者だったようである。
彼に対して頭が上がらない、あるいは全面的に好意を持っていたり肯定している寮長やプリンセスが多いのだから、その親友にでもなって彼を味方につけておけば、逆ハーもあるいは夢ではなかったかもしれない。
ということでガックリと肩を落とすアン。
そしてその目の前では別の意味でガックリと肩を落とすカイザー、ギルベルトの姿があった。
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