──え?な、なにっ?!!
いきなり聞こえて来た悲鳴の声は高くて、しかし声変わり前の少年のそれとは明らかに違う。
つまり、この学園にいるたった一人の女性、新任の女性教師のものと思われる。
と立ち上がるアーサー。
「そうだねっ!ヒーローの出番なんだぞっ!」
とアルもそれに同意する。
しかしながら、だ、あとの二人、ルートとマイクは事情を知っているだけに今回の諸々の黒幕にプリンセスを近づけるなんてとんでもないと、慌てて止めに入った。
「悲鳴があがるということは何か危険なことが起きている可能性もある。
プリンセスの護衛としてはそんなところにプリンセスを近づけるわけにはいかない」
と、実にルートらしい生真面目な主張に、
「でも…その危険な状況にレディがおかれているかもしれないだろう?」
と、こちらも実にアーサーらしい主張。
そこでもう一人、
「オゥケィ!それならここはアーサーに代わってヒーローの俺が様子を見て来ようじゃないかっ!!」
と、アルがとても良い笑顔でまた、実に彼らしい主張をするが、
「アルは他の寮からお預かりしている大切なプリンセスだからなっ。
この寮の主の一人としては客人にそんなことはさせられない」
と言って、アーサーは有無を言わさず部屋を出て、それをルートとマイク、そしてアルが追った。
追う側からすれば実に困った事なのだが、アーサーは足がとても速い。
長距離となると体力的に持たないのだが、短距離ならルートよりもアルよりも…もちろん自称モブであるマイクよりも速いのである。
なので廊下に飛び出された時点でもう誰も止められない。
とにかくその後ろ姿を追うしか出来ず、階段を駆け下りて下の階、つまりアンがいる廊下までたどり着くのを阻止できなかった。
一方でアンの方はアンの方で、当然のようにすぐ香に捕まったものの、一応殺すのはもちろんのこと、大怪我もNGと指示が出ている時点で、力の差はかなりあっても本気で暴れる彼女を大人しくさせようとするのは、香と言えども簡単ではない。
その場から逃がさない、移動させないことはできても、秒で拘束とはいかなくて、そこに困ったことに悲鳴を聞きつけたアーサーが駆けつけてきてしまったことで、香も内心頭を抱えた。
(…あ~あ、これ絶対にギルに激怒されるやつじゃ…)
とがっくりとする香の腕の中で、アンは目の前に駆け付けた一団の中の先頭に資料で見た銀狼寮のプリンセスが居ることを認めて、内心(勝ったっ!!)とガッツポーズを決めていた。
まあ…正確に言えば、この状況で本当の意味で一発逆転なんてありえないのだが、アンからするとこうなってしまった以上、銀狼寮のプリンセスを傷つけるということのみが、唯一の目標になっているのだから、形は違えど勝ちは勝ちなのだ。
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