寮生はプリンセスがお好き10章40_捨て身の復讐

たとえ逆ハーどころか攻略対象者全員に逃げられようと、このままでは終われないっ!
絶対に…絶対に一矢は報いるっ!!

アンも大概にこじらせていたコンプレックスを抱えていて、それがありえない原動力になっていた。

ドアの傍には香。
これを正攻法ですり抜けるのは難しい。

…ということで…本人が役にたつ気がなかったとしても役にたってもらう!!
とばかりにアンはつかつかと真っ直ぐ香に歩み寄ると、若干警戒の体制を見せる香に
──これっ!!
とユーシスの携帯を差し出した。

──へ?
といきなりのその行動に戸惑う香にどきっぱり
──ユーシスの携帯っ!私のは彼が持ってるから連絡とって話を聞いて。誤解だってわかるからっ
と言うと、香は戸惑った表情を見せながらもそれを受け取って連絡先のアンの連絡先を探す。

その一瞬の隙をついてアンは開いたドアの隙間から身をすり抜けさせて廊下に走り出た。

うあっ!!
と小さな声をあげ、香も即反応する。
即アンを追ってパシッとその腕をつかむと、アンは大きな悲鳴をあげた。

それは助けを呼ぶと言う意味では全く意味のない行動である。
だがアンの目的は別にあった。

罪もないか弱い女性の自分が大声を出さざるを得ないようなひどい状況にあっている…それを銀狼のプリンセスに認知させること。

万が一、彼が何も知らなくて善良な人間だったら、自分のせいでアンがひどい目に遭っているということに少なからず心を痛めるだろうし、おそらくそうだろうが、嫌な奴だったとしても自分のせいでそうなっていることを黙認すればそういうことを平気で黙認するようなひどい奴なのだと罵ってやる。

そうすれば最終的にこの学園を出てこの狂った制度から離れて正気に戻った学生達がいつの日にか彼のことを思いだした時に、ああ、そう言えばそんなことのできるひどい奴だったんだなと思う人間だって出てくるはずだ。

そうすれば彼の評価に一片の染みくらいは残せるだろう。

どうせ自分には何も残らないなら、黙って消えたりはしない。


以前の先輩の時はアンがあの女からは糾弾されず何もされず、かかわりを持たれなかったがために、あの女の人生には何も傷を残せなかった。

だから今回こそは幸せを掠め取られた復讐を果たすのだ。
アンの悲鳴は悲鳴であると同時に、そんな思いを込めた雄たけびでもあった。

そして神様はそんな哀れなアンの心の声を拾ってくれたらしい。

非情に幸運なことにアンが居た廊下はちょうどプリンセスが居るルートの部屋の下あたりだったらしく、アンの悲鳴は銀狼寮のプリンセスの耳に届いたのである。












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