寮生はプリンセスがお好き10章51_裏取引

「とりあえず…現状、資金も人材も心配なしで今後も王財閥に超恩売れるってお得じゃね?」

香がそう持ち掛けているのはギルベルトではない。

そう、バイルシュミット家は金では動かない。
人脈もあるし、王財閥の助力など必要なし。
そんな条件では動いてはくれないだろう。

それでも自分だけのことなら付き合いの長い友人ということもあるし香が泣きつけば助けてはくれるだろうが、こと、プリンセスまで巻き込むとなると、問答無用でシャットアウトされるのは目に見えている。

…ということで、ギルに直接交渉は時間の無駄だとばかりに香が向かった先は、そのバイルシュミット家が全く目もくれないであろう条件を喉から手が出るほど欲しがっている相手…銀竜のプリンセス、フェリシアーノの所である。


今の時点で創始者の孫の一人だというところまでは明かしているが、学園の理事長だというところまで明かすかどうかはまだ迷い中らしい。
それを明かしてしまえば、まず学園での影響力を欲している全ての人間の攻撃の対象になるが、彼にはそんな輩から自らの身を守るための後ろ盾がない。

もちろん学園の理事ともなればOB達は保護してくれるだろうが、彼らとて一枚岩ではないので、自らが理想とする学園のために協力してくれるだけで、フェリシアーノに対して協力するわけではない。
つまり…その意向に反する学園運営をすれば、逆に敵対される可能性もあるのだ。
なのでフェリシアーノは学園の味方ではなく自分の味方を欲している。
王財閥の後ろ盾というのは、そんな彼から見ると何より魅力的に映るだろう。

ということで…ギルベルトと直接交渉よりは与しやすそうなフェリシアーノから味方につけて、アーサーとも仲が良く交渉も上手い彼にアーサーの方から落としてもらうのが確実だ。

そう考えて香はフェリシアーノを訪ねたというわけなのである。

そしてフェリシアーノの方もどうやらそんな香の事情を察して待ち構えていたようだ。
ギルベルトを訪ねる時によくそうするように、夜中にこっそりと庭木伝いに窓を叩けば、
──そろそろ来る頃かと思った。
と笑顔で窓を開けてくれる。

そうしてそこで交渉を持ち掛ける香。
もちろんフェリシアーノの側も異論はない。

「じゃあ、まずはアーサーに事情を話さないとね」
と、にこやかに言い放った。

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