こうして玄関を入り、リビングを抜け、キッチンへ入ったスペインを迎えたのは、憮然とした表情のアメリカだった。
その手には襟首を掴まれてマオマオ鳴いている金色子猫。
と、慌ててその手から子猫を奪い返すと、アメリカはガリガリと頭を掻いた。
「返してってね、君…。
こんな火をかけっぱなしのキッチンのテーブルの上なんかに子猫置いといたら危ないじゃないかっ!
火は止めておいてあげたけどね、感謝されても怒られる筋合いはないんだぞっ!!」
そういったあと、『そんなことはどうでもいいから、イギリスはどこだい?!』と付け加える。
「自分…なんでイギリスがうちにいるとかわけわからん事言うてるん?」
当たり前だがスペインの手の中の子猫には全く注意を払っていないアメリカにホッとしながらとぼける事に決めたスペインがそういうと、アメリカはぷくりと頬を膨らませた。
「イギリス自身が言ったんだぞっ。
今日はスペインの所行くから俺との勝負は出来ないってっ!」
ああ…馬鹿正直に言ってしまったのか。
イギリスは本当にアメリカの自分に対する執着がわかってない。
そんなことを言えばスペインまで押しかけてくるに決まってるじゃないか…。
誰もが予想できるそのアメリカの行動を、当のイギリスだけがわかっていない。
今年は都合が悪い、そういえば気にせず他と楽しく過ごすのだろうと思っていたのだろう。
それを示すように手の中の子猫がちょっと困ったように、まぁお~と一声鳴いた。
(しゃあない子ぉやねぇ)
苦笑しながらスペインはそのピンク色の小さな鼻に口付けを落とす。
まぁぅ…と、くすぐったかったのかふわふわした前足でかしかし鼻を掻くのが可愛い。
そういえばこの姿は久しぶりだったな…と、エプロンを出して前ポケットにその小さな体を収納した。
猫の時は狭いところが落ち着くらしいアーサーが小さくぷふぅ~と心地よさそうに鼻を鳴らすのに、思わず笑みがこぼれる。
前足をちょんちょんとポケットの縁に乗せ、すっかり寛いでいるアーサーの頭を撫でてやっていると、完全に忘れ去られていたアメリカが不満げな声をあげた。
「で?!イギリスはどこなんだいっ?!!」
との声に、ようやくその存在を思い出したスペインは、もちろん本当の事など教えてやる気など毛頭ないので、きっぱり
「帰ったで?ちょっと仕事の根回しの相談しとってな。もうちょおかかるかと思ったんやけど、案外早く終わってもうたんで、とっくに帰ったんやけど?」
と、素知らぬ顔で言い切ると、
「それ…早く言ってくれよっ!」
と、ヒクリとアメリカの顔が引きつった。
「そんなん言うたかて、自分なんも言わさへんまま行ってもうたやん」
と言ってやるとアメリカは
「邪魔したねっ!」
と、もうここには用はないとばかりに大股にキッチンから出て外へ行くと、またすさまじい音をたてて飛行機で飛んでいった。
まるで台風のようだった。
アーサーをポケットに入れたまま念のため外に出れば、道路に車輪の跡。
風で若干ハローウィンの飾りが取れたり壊れたりしたけれど、物なら直せば良い話だ。
支えるように抱えたポケットの中の温かなぬくもりが残っていればそれでいい。
…まぁお……とポケットの中からその惨状を見たアーサーが申し訳なさそうに鳴いたが、スペインはその小さな頭を撫でながら
「ええよ。アーサーがおってくれたら飾りなんてどうでもええ。
家の中は無事やし、妖精さん達と楽しく過ごそうや」
と微笑んで、家の中に入って行った。
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