あずま男の源氏物語@私本源氏物語_六の巻_2

「トーニョのやつ、もう泳げるようになったかな?魚とか捕れるようになったかな?」 二条の屋敷に引き取られて早 3 年。 アーサーも成りだけはお年頃という年にはなってきたが、その中身はまだまだ子どもだとキクは思う。 アントーニョが須磨に出発して 3 週間。 ...

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_六の巻_6

「やれやれ、あとはトーニョ呼び戻す使者出して終わりか…」 前時代の大御所二人を見送って、ギルベルトは大きく息を吐き出した。 「この件に関してはそうかもだけど、ギルちゃんの場合はこれからが始まりでしょ」 同じくホッとしたようにギルベルトの肩に片手を置くフランシス。...

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_六の巻_5

「結局…あんたは惚れた女のために動くんやな」 御所から少し離れた静かな場所に建てられた館に向かう牛車の中で、ゆっくり流れる景色をぼんやりと目の端に入れながらエンリケはつぶやいた。

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_六の巻_4

「久しいなぁ、昔は里帰りのたび膝に乗せて菓子やったもんやったけど…覚えとる?」 そう言って浮かべる微笑みは優しい。 尼君に事情を聞いていてさえ疑ってみたくなるほどには…。

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_六の巻_3

ふぅ~…と思わずついたため息を、この敏感なんだか鈍感なんだか分からない、キクの幼い主は聞きとがめたらしい。 サラサラとそれだけは上達した綺麗な字をしたためていた筆を置き、キクを振り返った。

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_六の巻_1

「須磨……」 小さい北山の雀っ子も、 3 年も経つと子どもらしさに少しの落ち着きが出てきた。 アントーニョが帰ると文机に向かって絵本を読んでいたアーサーは顔をあげて、そこは昔のままパタパタと駆け出してきて出迎えたが、深刻な顔のアントーニョに、当分須磨の田舎で謹慎をす...

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_五の巻_2

「お、おまえ……何しとるんや~~!!!!」 血管が切れそうな勢いで叫んでいる右大臣。 「あれ?お祖父様何かご用?」 まだ寝ぼけ眼で目をこすりこすり祖父を見上げるエリザに 「何か用?やないわぁ~~!!! 自分何してくれとんのやっ!!帝に嫁ぐ身ぃでこんな...

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_五の巻_1

「兄ちゃんおる?」 宮中でヘラリとそう問うアントーニョだが、さすがに東宮ともなれば会いたいんだけど?はいそうですか、と即会えるわけでは当然ない。 「こちらでお待ちくださいませ」 と、部屋に通され、アントーニョは一人月を肴に出された酒に口をつける。

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_四の巻_3

「どうなさいました?ずいぶんと深刻なお顔をなさっておいでで…」 帰りの挨拶もそこそこに、珍しくお姫ちゃんことアーサーと遊ぶことなく自室にこもったアントーニョを気遣わしげに見送るサディクにさらに気遣わしげに声をかけるキク。 「ああ、うちの大将ですかぃ」 「いい...

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_四の巻_2

あまりに周りが見えていなかったのだろう…ドン!と誰かにぶつかり 「ああ、堪忍な」 と、そのまま行こうとすると、 「ちょっとまって」 と、その誰かに腕を掴まれ引き止められる。

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_四の巻_1

事件というのは唐突に起きるものである。 不幸もまた然り、前兆なし。 嵐の前触れはアーサーを引き取って早 3 年の月日がたったある初夏の日のことだった。

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_参の巻_1

恋…それはアントーニョにとって初めてと言って良い感情だった。 そもそもが彼の恋心を伴わない恋愛遍歴は幼少時に端を発している。 実母は幼くして亡くなった。 かすかに覚えているその容姿は自分に似ていた。 だから母を亡くした寂しさは、鏡に映るどこか母と同じ面差しのある自分を見...

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_参の巻_2

好奇心からでもなく、身体の関係ありきでもなく、まず気持ちの高まりから始まる関係は、エンリケ以来だった。 しかしあの時と違うのは、現状を維持が前提ではなく、育って行く心だ。

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_弐の巻_2

「まあこれでトーニョも懲りたよな…」 お姫ちゃんが帰っちまったんで、俺らも宿へと向かい、一休み。 宿までの道々無言で何か考えこんでいた大将は、ひどく思いつめたような顔で部屋にこもっている。

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_弐の巻_1

「北山?北山におるんやなっ?!」 まるで病人のようだった大将は、俺がお姫ちゃんの話をすると急に元気になった。

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_壱の巻_4

こうして隣まで足を運び、 「ちょいとごめんよ。」 と、声をかけると、どうやら身分を隠して地味な牛車で来ていても、それなりの身分のモンだとわかる大将の牛車に興味津々だったらしい若い女が好奇心に目を輝かせて走り寄ってきた。

あずま男の源氏物語@私本源氏物語_壱の巻_3

話ははるか昔に遡る。 まだ若かった帝が見初めた身分の低い更衣。 それが大将のおっかさん、桐壷の更衣だ。