あずま男の源氏物語@私本源氏物語_六の巻_6

「やれやれ、あとはトーニョ呼び戻す使者出して終わりか…」
前時代の大御所二人を見送って、ギルベルトは大きく息を吐き出した。

「この件に関してはそうかもだけど、ギルちゃんの場合はこれからが始まりでしょ」
同じくホッとしたようにギルベルトの肩に片手を置くフランシス。

「それにしても…早かったよねぇ、ギルちゃんの行動。
トーニョが須磨に出発してからすぐ桐壷帝に連絡。
アポ取って事情説明。
元々譲位は考えてはいたらしいとはいっても、まだ少し先のはずだった帝を説得。
貴族の間の根回し、具体的な手続き、全部20日ちょっとで終わらせるって、前代未聞じゃない?」

「しょっぱなで後手踏んじまったからな。
すでに事が起きちまってる以上、あとは迅速に処理してかねえと被害拡大すっし?
あんまのんびりしてっと誰かさんに扇で殴られるか、蹴り倒されそうだしな」

「よくわかってんじゃない。…でも今回はちょっと見なおした……カモ」
若干乱れたアーサーの身なりを整えたりキクを介抱したりと忙しく立ち振舞ながら言うエリザ。

語尾がめずらしく小さくなるのに、

「お~、そうだろ、俺様を讃えあげまつってもいいぞ」
というと、
「調子に乗るなっ!!」
と扇が飛んでくるのは相変わらずだ。

「帝になってもこの辺りは変わらないねぇ」
と苦笑するフランシス。

「…で?結局エリザはどうなるの?」

「ああ、噂立っちまうと女御で入内っつ~わけにも行かねえから尚侍?
俺らの関係なんて名称で変わるもんじゃねえよ。
女御よりも若干宮中の雑務は入るけどな、むしろぼ~っと日がな一日かしこまってるよりは、その方がエリザらしくね?」

「ああ、そうだね」
と、こちらは名称が変わるだけで実質影響がないらしいことに、なんのかんの言って人の良いこの男は心の底から安堵する。

そういうことで、こちらは心配なしと判断し、宮中のお兄さんを自称するフランシスの世話焼きの対象は、幼なじみカップルから、残された幼なじみの小さな恋人へと移ったようだ。

「どこか痛くない?大丈夫?」
と、少し身をかがめて聞くと、元々気丈な性質なのだろう。

凛とその場に立ったまま、
「俺は大丈夫。それよりキク診てやってくれ。頭とか打ったみたいだし」
と、自分の連れの心配をする。

「ああ、私は大丈夫です。少し脳震盪起こしたようですが…」
と、少しふらつく足で、それでも小走りに近づいてくるキク。

「本当に…本当に何も無くて良かった…」
と、いつも何に対しても顔色1つ変えず辛い顔悲しい顔1つせず微笑んでいたキクがぎゅうっと主を抱きしめて泣きじゃくるのを、フランシスはポンポンと背を叩いてなだめてやる。

「え~っとね、どうする?お兄さん二条まで送ろうか?」
と、二人の顔を覗きこむようにフランシスが聞くと、キクが少し硬直する。

「…二条……」
誰もいない二条の館。
初めて連れて来られた時はこれで大丈夫…と安心感があふれたのは、思えばあの立派な館があったからではない。
あの男達がいたからだと今更ながら彼らのいない場所に戻るのを心細く思う。

「フラン、ケチくせえ事言うなよ。
俺がすぐ手配してやっから、このまま須磨まで送ってやれ」

「ええ??お兄さんまで田舎行くの?!!」
「おうっ!俺、慰労は播磨の海の海産物でいいわ」
にやにや笑う顔はいたずらばかりしていた悪ガキだった頃と変わらない。


そうしてイケイケのギル、トーニョ、エリザの代わりに怒られて後始末をさせられるのは、いつも自分だったような…と、フランシスはそんな自分の役回りに深く深くため息をついたのだった。



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