あずま男の源氏物語@私本源氏物語_弐の巻_2

「まあこれでトーニョも懲りたよな…」

お姫ちゃんが帰っちまったんで、俺らも宿へと向かい、一休み。
宿までの道々無言で何か考えこんでいた大将は、ひどく思いつめたような顔で部屋にこもっている。


ロヴィーノの言葉に俺は考え込んだ。
う~ん…お姫ちゃんとは相性良いと思ったんだが、ダメか?

一から育てるっつ~話になってたからなぁ…。
興が削がれちまったか…。
乳母さんも綺麗な顔してすげえ教育してくれるぜ。
ガシガシと頭を掻いて俺は屏風の向こうの大将の出方を待った。


「サディク、ちょお聞きたいんやけどな」
と、しばらく後、大将はスクっと立ち上がって、今までにないほど真剣な表情で俺を見下ろした。

「はい。なんでしょう?」
釣られて俺も柄にもなく緊張した面持ちになる。

また探し直すかの相談か?……と思いきや、さすがうちの大将。
俺は大将の変わり者度、打たれ強さを舐めてたらしい。

「坊さんに交渉すんのと、このまま攫うのとどっちがええと思う?」

「はあ?」
「せやから…お姫ちゃん、アーサーをこのまま連れ帰ろう思うんやけど…どっちがええと思う?」

「はああ???お前なんだよ、その急展開っ!!」
隣のロヴィーノも目を剥いた。


「これ…一生に一度の恋やねん。絶対に譲れへん。
せやからどうあってもあの子うちに連れて帰るでっ!」


自分にも実母にも、もちろん継母にも…誰にも似てない、似たところなんて何もない子どもに惹かれた、そんな相手をようやく見つけて本当の恋愛を始めようとしている、自己愛もマザコンもようやく脱した男の顔をしたうちの大将は、俺が今まで見た中で一番良い表情をしていた。

これはどうあっても協力してやんねえと、男がすたらあっ!

「なんとしてでもお連れしやしょうぜ。協力しやす」
「あ~、もうお前物好きだなぁ。まあ皇后口説かれるよかいいけどな」

こうして俺ら側近二人と大将と、北山の仮住まいで頭を付きあわせて、お姫ちゃん獲得計画を練リ始めたのであった。




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