こうして戻った左大臣家所有の須磨の館で、アントーニョは事の次第と帰京を許された事を知る。
夕食は今日捕ってきた魚と地元でとれた野菜。
特に細やかな細工などがしてあるわけでもないが、新鮮な素材で作った素朴な料理に舌鼓を打ちながら、そう言うアントーニョに、アーサーが口を尖らせる。
「俺、まだこっちを見て回ってないぞ」
「せやかて、帰京許されたんやったら戻った方がええんちゃう?」
「…入らないで見てるだけなら綺麗な海も見えて自然も豊かで趣があるし……」
と、そこで赤くなって口ごもるアーサーに、アントーニョは昼間の島での事を思い出す。
「…こっちで…初めてでええん?」
箸を置き、膳をどけるとアーサーの腕を取って引き寄せた。
そのまま抱きしめて、今度こそ邪魔の入らぬうちに…と、口付けようとするが、顔を両手で押しのけられる。
「…ちゃんと準備してもらってから……」
「…もう待てへんわ……お願いや…焦らさんといて……」
切なげに訴えられればアーサーもその気がないわけではないので強く拒めない。
「仕方ねえな…」
と、どかせようと掴まれた両手首から力を抜いて目を閉じれば、手首を掴んでいたアントーニョの手は腰と後頭部に添えられる。
「何があってもずっと一緒や…。
もしこのまま戻れへんようになったって俺かてアーサーの一人くらい養えるくらいには色々覚えたんやで?
守ったる…だから、アーサーの全部俺にやったって?」
そうかき口説きながら、アーサーの小さな白い顔に己のそれを近づけ、唇が触れる直前に目をつぶったその瞬間……
「大将っ!頭の中将様が帰っていらっしゃらねえんですがっ?!」
ガラリとふすまが開く音にアーサーに再び突き飛ばされる。
「サディク、今度は自分かあぁぁ~~!!!!」
お預けをくらい続けるアントーニョの絶叫。
俺が何したって言うんやっ!!と自分の不遇を嘆くアントーニョだが、彼は知らない。
『本人に交渉したってや』
という非常に無責任な一言で、その頃気がついたら知らない娘と小舟の上な悪友が【陸地へ連れて行って欲しければ】と非常に究極の交渉を迫られている事を。
その後、キクの心配りで環境が整う中、無事鴛鴦の契りを結んだ二人の一方で、哀れな色男は海の上、どうなったのかは知る人ぞ知る…というところである。
補足など
手のうちに入れた者を離したくないエンリケが何故アントーニョに対しては抱かれた後に接触をたったか…
まず贈り物を贈ればアントーニョが憤って自分の所にやってくるというのは計算してやってます。
さらに初めての性経験の相手になって、さらにその後距離を取る事で、アントーニョが気持ちを引きずるであろうことも計算済み。
そのままずっと自分を想っていれば良いという計算の元に行動しています。
あと、ぷーちゃんとエリザさんの関係について
原作だと源氏の異母兄の朱雀帝は右大臣の娘の子どもで、朧月夜は右大臣の6女。つまり甥と叔母の関係なわけですが、なんとなく…なんとなくエリザさんも右大臣の孫、二人はいとこ同士という設定にしてみました。
鬼のように詰め込んだので色々わかりにくいと思います。すみません(^^ゞ
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