ヒロイン絶賛傷心中20

「例えば…ここでこう…」 と、いきなりキッチンのセットの引き出しをあけて包丁を取り出し、それを当たり前に自分に刃を向けてグッと押す。

ヒロイン絶賛傷心中19

そしてそこで助け船を出すように少し年配の女性記者が 「書かれている具体的な行動については事実の部分もあるけど、それが同性愛からくるものかと言われるとまた別だと言う事ですよね?」 と、言葉を添えると、それに対してアントーニョは 「ああ、そう。それです。おおきに」 と...

ヒロイン絶賛傷心中18

いつもの明るいテンションが嘘のように真剣な様子でそう訴えると、きっちり90度、身体を倒してお辞儀をするアントーニョ。 今まで見たこともないような、いつもと全く違う様子にざわめきながらも焚かれるフラッシュ。

ヒロイン絶賛傷心中17

「時間だ……」 とちらりと腕時計を見てギルベルトが呟いた時、ちょうど多数のフラッシュを浴びせかけられ、マネージャーも社長もスタッフも誰ひとり連れず、アントーニョが一人で登場した。

ヒロイン絶賛傷心中16

15年ほど前、ある事件をきっかけに映画界を引退して実業家となったが、確かにその子であるという事を表に出せば、それだけでどこかしらのTV局は動くだろうし、そもそもがデビュー当時にそれを前面に押し出せば、それだけで話題性はあったはずだ。 それを何故?と言うフランシスの言葉に、ギ...

ヒロイン絶賛傷心中15

「ギルちゃん、そろそろ始まる?!」 某TV局のいつもの悪友キッチンのセット。 いつもと違うのはキッチンに立つのは悪友+天使+エリザの5人ではなくアントーニョただ一人で、観客席はいつもの観客ではなく、事務所から連絡が入って集められた記者団やカメラで埋めつくされている事であ...

ヒロイン絶賛傷心中14

「まあ…日頃の親分がどんだけ人気稼げとるかやなぁ……」 と、誰にともなく呟きながら、それは趣味でいまだに使っているレトロなダイヤル式の家電の受話器を取ると、アントーニョはダイヤルを回した。

ヒロイン絶賛傷心中13

「アーティ、入るよ~」 暗い寝室。 ベッドの横の床にペタンと力なく座り込んでいるアーサーにアントーニョが声をかけると、途端にまたその自分よりも数回りは細い肩がびくん!と跳ね上がった。

ヒロイン絶賛傷心中12

とにかく明日の朝一だ。 それくらいには動かないと、記者が突撃してくる可能性が高い。 どうするか……。

ヒロイン絶賛傷心中11

「トーニョ…ちょっと。」 その日もドラマの撮影を終え、お疲れさん、とスタッフに挨拶をしてアーサーと二人して帰ろうとしていたアントーニョを何故かギルベルトが待っていた。

ヒロイン絶賛傷心中10

ちらりと押しつけられた厚い胸板から顔をあげ、ちらりと視線を上に送ると、アントーニョはにこりと笑みを向けてくる。 ここまでくるとどうやっても言うしかないだろう。 もし怒ったらゴメン…と、心の中で祈愛に謝罪をしながら、アーサーはこれ…と、さきほどから手にしている缶コーヒーを見...

ヒロイン絶賛傷心中9

「それは…アーティを泣かせた奴をって言う意味やったら、無理や」 「…え?」 意味がわからず目をぱちくりするアーサーの大きな目の目尻をアントーニョが指先でスッと撫でる。

ヒロイン絶賛傷心中8

こうしてしばらく待っていると、撮影が終ったらしくアントーニョが走ってくる。 「お疲れ様」 と、アーサーは立ち上がって言うが、近くまでくると急にアントーニョの顔が険しくなった。

ヒロイン絶賛傷心中7

本当にうかつだった…。 確かに最初の日にアイドルに女性関係はご法度だと言われていたはずだ。 あれは彼女がいると誤解されての話だったが、話自体はその架空の彼女に限った事ではないのは当然である。

ヒロイン絶賛傷心中6

「本当にまだ染まってないって感じよね。 トーニョが大事に大事に保護したくなるのもわかるわ~。」 と祈愛がアーサーの頭に手を伸ばした瞬間、グイっとひっぱられてアーサーはもうさすがに慣れてしまった筋肉質な身体の中に抱え込まれる。

ヒロイン絶賛傷心中5

「あら、天使ちゃん、最近よく会うわねっ」 ドラマの撮影中。 アントーニョだけの場面でアーサーの出番はないのだが、あまり離れないようにと言われているので撮影のセットからやや離れた所に置かれた椅子に座って撮影の様子を眺めていると、後ろから聞いた事のある声が...

ヒロイン絶賛傷心中4

そんな目論見の元、祈愛はマネージャーにユニット【悪友と天使】のスケジュールを調べさせた。 「トーニョ、偶然ね。久しぶり~♪」 こうしてなんとか【悪友】が同じ時間帯にスタジオにいる仕事をいれてもらって、祈愛はさもたまたまかちあったかのように、アントーニョに手を振った。 ...

ヒロイン絶賛傷心中3

感情的に…でも声を殺して泣いて縋る某女優に、アントーニョがもはや同僚に向けるものですらない、冷ややかな侮蔑を込めた目で見降ろして、 「最初に言うといたやん? 特別扱いはできひんって。 ヒロインとして扱わなあかん間は出来る限りそういう扱いはしたるけど、仕事やろ? 周りが望...

ヒロイン絶賛傷心中2

なんだそういう事だったのか…と思えば気分も落ち着いてきた。 今回のドラマはもう無理だろうが、そのうちほとぼりが冷めたら、プライベートではアントーニョが連絡をしてきてくれるだろう。 自分はこういう時に泣いて騒ぎ立てるような余裕のないみっともない女じゃない。

ヒロイン絶賛傷心中1

浅葱祈愛は不機嫌だった。 ほぼ確定とされていた『黒い楽園』のヒロイン役を突然下ろされたのだ。