それを何故?と言うフランシスの言葉に、ギルベルトは苦笑する。
「ん~…あいつが父親許してねえからじゃね?」
と、続けられた言葉で、察しの良いフランシスは納得した。
エスペランサは同じくスペインの天才女優と言われたアンジェリーナ・カリエドと結婚し、1子をもうけている。
が、その子どもが生まれる2年前に別の女との間に隠し子を一人もうけているのだ。
それが発覚したのがアンジェリーナとの子どもが5歳の時。
売れっ子女優のアンジェリーナの資産を使って壮大な映画を何本も作り、名をあげつつ別の女との間に隠し子を作っていた…稀代の名女優と言われたがラテンらしく気性の激しい女性だったアンジェリーナは当然それを許せない。
夫の不実を詰り業界の力ある重鎮達に訴え、そして最後に一人息子を残して自殺した。
その死はファンのみならず、映画界の重鎮達にもひどく惜しまれ、結果、エスペランサは事実上、業界から締め出された形になり、スペイン映画界の敵とまで憎まれた女性と今更別れる事も出来ずに今に至る。
「なるほど。エスペランサ・ヘルナンデスとアンジェリーナ・カリエドの子なわけ」
「そそ。だから父親は毛嫌いしてっし、縁切ってる」
「それをあえて前面に押し出しても記者会見開きたいって事だったわけね…」
「ああ。だから社長も諦めたってわけだ。
あいつにとってこの世で一番嫌いな男の血を継いでいるって事を利用するっていう、たぶんあいつの気性からすりゃあ死んだ方がマシくらいの犠牲払ってもやりたいっつ~ことを止められやしねえだろ。」
「確かにねぇ……坊ちゃんも愛されてるねぇ…」
「おま…今の状況でその言葉禁句」
「あ、そうだった…」
と、手で口をふさぐフランシスに、ギルベルトは少し眉をひそめて見せた。
「とりあえず…その坊ちゃんはどうしたよ?」
「ああ、大丈夫よ。ちゃんとエリザちゃんに預けてきたから」
と、フランシスが請け負うのにとりあえずホッとした様子を見せながらも、
「んじゃ、あとはもうトーニョしだいだな」
と、アントーニョが来るであろう舞台袖に厳しい目を向けた。
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