「お疲れ様」
と、アーサーは立ち上がって言うが、近くまでくると急にアントーニョの顔が険しくなった。
今まで向けられた事のないような表情。
「…何があったん?」
その目がアーサーの顔と手の中のコーヒーを交互に見比べている事に気がついて、アーサーは青くなった。
これは…ばれた?
「…あ…あの……」
「何があったか話し?」
と、肩を引き寄せられ、顔を覗きまれる。
明らかに怒りを含んだその目にアーサーが身をすくめると、気づいてアントーニョは少し表情を和らげた。
「何があったん?」
と、さきほどよりは柔らかな口調でもう一度聞かれて、アーサーは迷う。
たぶん…祈愛の行動は本当に善意の、もっと言えば自分が取った行動で怒られたのだと思ったアーサーへのリカバリだ。
しかしアントーニョはさきほどの事もあって自分だけじゃなくて祈愛にも腹をたてている。
どうしよう…自分だけが怒られるだけならまだいいのだが…と思って、アーサーはアントーニョを見上げておそるおそる切り出してみる。
「あの……」
「ん?」
「…お…怒らないか?」
震えながら言うと、一瞬の間のあと、アントーニョはふわっといつもの優しい笑みを浮かべて、緊張のため冷え切ったアーサーの頬を大きな手で包み込んだ。
「堪忍。別にアーティの事怒ったりはせえへんよ?
アーティに対して腹たてとるわけやないねん」
まるでやらかした子どものような自分の言い草に対して、やっぱり子どもに対する大人のような言い方のアントーニョ。
アーサーは、違う…違うんだ…と思って、
「そうじゃなくて……俺は良いんだけど…他を怒らない?」
と、それを口に出すと、とたんにアントーニョの顔がまた険しくなった。
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