本当にうかつだった…。
確かに最初の日にアイドルに女性関係はご法度だと言われていたはずだ。
あれは彼女がいると誤解されての話だったが、話自体はその架空の彼女に限った事ではないのは当然である。
自分のお預かりになっている後輩が女優と噂などたったらアントーニョの責任問題だ。
さぞやうんざりしただろう。
さすがに少し苛ついた様子が見えた。
それでもなんとか怒りと呆れを押し込めて笑顔で優しく説明してくれるアントーニョは大人だと思うが、それが返って申し訳ない。
いっそのこと思い切り叱責して欲しかった。
自分のいたらなさが恥ずかしいのと申し訳なさでジワリと浮かぶ涙は、しかし後ろから出てきたハンカチが拭き取っていった。
「…?!」
驚いて振り向くと、ばつが悪そうな顔をした祈愛がいる。
(…怒られちゃったみたいね、ごめんね。これお詫び。
自分で買った事にでもして飲んでね)
と、小声で言って差し出す缶コーヒー。
(じゃ、トーニョにバレないうちに戻るね~)
と、それを茫然とするアーサーの手に押し付けると、こそこそっと戻っていくその様子はなんだかコミカルで思わず噴き出しかけて、アーサーは礼を言ってない事に気づいて少し慌てた。
だいぶ離れたところで少し振り向いたので、声を出さずにありがとうございますと口を動かすと、祈愛はOKと手で形作ってひらひらと手を振ってスタジオを出て行った。
アントーニョと色々親しくて噂になって巷の女の子達には非常に評判がよろしくなかった女性だが、そう悪い人には見えないな…と、アーサーは手の中のコーヒーに目を落とす。
自分が紅茶派なのはアントーニョも知ってるし、そもそもアントーニョに隠しごとをするのはよろしくない。
あとでアントーニョに報告して、許可が出たらありがたく頂こう…と、アーサーはアントーニョの撮影を待った。
0 件のコメント :
コメントを投稿