トーニョが大事に大事に保護したくなるのもわかるわ~。」
と祈愛がアーサーの頭に手を伸ばした瞬間、グイっとひっぱられてアーサーはもうさすがに慣れてしまった筋肉質な身体の中に抱え込まれる。
…へ?と思う間もなく振ってくる声。
「この子にはおかしな事せんといてなっ。俺らとは違うんやから」
という言葉はどうやら自分ではなく、祈愛に向けられているらしい。
息を切らして血相を変えて走ってきたらしいアントーニョの勢いに、祈愛は目を丸くしている。
そりゃあそうだろう。
今は撮影中だ。
少し話していただけで飛んできて良い時じゃない。
「別に…たまたまみかけたから少しおしゃべりしてただけなんだけど……。
トーニョって撮影の間は相手役と噂になるくらいべったりだけど、男の子でもおっけぃなの?」
「せやから、そういうのやめたってっ!
この子はそういう冗談に巻き込んでええ子ちゃうんやからっ!」
珍しく声を荒げるアントーニョに、祈愛は即切り替えたらしい。
「ごめん。気をつけるわ」
と、両手をあげて席を立った。
「ただちょっと空き時間があったからトーニョでも眺めて来ようかな~って思っただけだったんだけど…気を悪くさせたのならごめんね?」
困ったように笑う祈愛に、アントーニョは少し落ち着いて、小さく息を吐き出す。
「おん。この子は親分が事務所から責任もって預かってる子ぉやし、特別やねん。
話すんなら今度別ん時に、親分がおるところでな」
「うん、わかった。じゃ、あたしも撮影だから」
ひらひらと手を振って離れていく祈愛をアーサーはぺこりとお辞儀をして見送った。
完全に祈愛の姿が見えなくなってからようやくアーサーを離すアントーニョは少し機嫌が悪く見える。
「…あの…トーニョ……」
おずおずと声をかけるアーサーにアントーニョは不機嫌さを押し隠したような笑みを浮かべて、少し身をかがめて視線を合わせた。
「あのな、アーティも有名になってくると色々な人が声かけてくると思うねん。
そんなかにはああいう女優さんとか女の人もおると思うんやけど、最初にも話したけど、俺らはアイドルやからな?
あんまり特定の女優さんと一緒におると、ないことないこと言いふらされたり雑誌に書かれたりすることがあるからな。
二人きりになることはせんといてな。
声かけられたら、親分に知らん人と話したらあかん言われとるからとでも言うといて?
そしたらあとで親分が適当にフォローしとくさかいな」
子どもに言い含めるように言ってアーサーの頭を撫でて撮影に戻っていくアントーニョ。
その姿をまた見送って、アーサーはず~ん!と落ち込んだ。
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