「あら、天使ちゃん、最近よく会うわねっ」
ドラマの撮影中。
アントーニョだけの場面でアーサーの出番はないのだが、あまり離れないようにと言われているので撮影のセットからやや離れた所に置かれた椅子に座って撮影の様子を眺めていると、後ろから聞いた事のある声がして、ふわりと柔らかそうな茶色の髪が頬に触れた。
振り向くとそれが似合うような勝気そうな笑みが目に入る。
「あ…えっと…浅葱祈愛さん。
こんにちは。どうぞ」
と、アーサーは慌てて立ちあがって自分がかけていた椅子を勧めた。
祈愛はそれに対して少し目を丸くして、次に
「紳士ね、ありがとっ」
とにこっと微笑んで座る。
その一連を見て、自分を他者にどう見せるか、それを意識してる動作だなと、アーサーは思った。
フランシスの母、伯母で女優のフランソワ―ズもそうだが、先に気づいていてもいきなり笑顔を向けない。
少し相手に目を向けて、相手も自分に気づいて目を向けた時、ワン呼吸置いて嬉しそうに微笑む。
これで相手は、彼女が元々機嫌が良いというより、自分に会えて嬉しいという意思表示をしているように思うのだそうだ。
ああ、この女性も女優なんだなぁ…と思うと、そんな人間がゴロゴロしている中に自分がいる事が不思議に思えてくる。
そんなことを思っている間に、無意識に凝視してしまっていたらしい。
「なあに?あたしの顔に何かついてるかしら?」
と、笑われた。
「あ、失礼しました。
つい…女優さんなんだなぁと思って…」
女性をマジマジと見るなど失礼な事をしてしまったと、焦ってそう言うと、祈愛は一瞬きょとんと固まって次の瞬間に小さく噴出した。
「ああ、うん、私は確かに“女優さん”だけど…君ももう俳優さんなのよ?」
と言われて、今度はアーサーがびっくりする番だ。
「…はい…ゆう……」
いや、そうなんだろう。よくよく考えたらそうなんだろうが…あまりにピンとこなさすぎてぽかーんとしていると、
「やだ、天使ちゃん、かっわい~~」
と祈愛はきゃらきゃらと笑いだした。
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