「トーニョ、偶然ね。久しぶり~♪」
こうしてなんとか【悪友】が同じ時間帯にスタジオにいる仕事をいれてもらって、祈愛はさもたまたまかちあったかのように、アントーニョに手を振った。
ヒロイン役に選ばれてその後アントーニョがずっと色々面倒を見ていると言う少年も都合の良い事に一緒にいる。
「お~ら、祈愛久しぶりやねぇ」
と、アントーニョは手を振り返しながらも、さりげなく少年を後ろにやって、自分が祈愛の方に一歩出た。
まるで自分から少年を引き離すようなその行動に、これは…もしかしてやきもち?自分を取られたくないとか、そういう事なのだろうか…と、祈愛のテンションはいやがうえにもあがった。
にこにこと機嫌良く、二人の方へと駆け寄っていくが、ある一定の距離まで来ると、さりげなく制される。
「一定の距離は保っとかんと、事務所もマスコミもうるさいで?
お互い芸能人やしな」
と、笑顔で言うアントーニョに、
「あら?あたしはトーニョとならスキャンダルになってもノープロブレムなんだけど?」
と、少し冗談めかせて…でも本人には本気をちらつかせるように上目遣いに視線を送る。
ところが、一緒にいた頃は察してくれていたので本当は鈍感ではないはずのアントーニョが、しかし今は敢えて気付かないふりなのか、
「堪忍してやぁ。
親分、エリザにフライパンで殴られてまうわ~」
と、それを冗談として受け取ったようにおどけて応じてくるので違和感を感じたが、
「ドラマも佳境で大事なとこやしな。
ここでドラマよりもスキャンダルが注目されるような事になったら親分さすがに社長にもどつかれるわ」
と、少し眉の端を八の字にさげつつ言う言葉に、なるほど、と、納得した。
確かにアントーニョは女より仕事。ドラマが一番の男だ。
ここでまた自分とスキャンダルでも起こしたら、なんのためにドラマのヒロイン役を公募に変えたのかわからなくなってしまうとでも思ったのだろう。
自分は
『私と仕事、どっちの方が大事なの?!』
などと詰め寄る馬鹿女ではないのだ。
仕事にもちゃんと理解のある賢い良い女を印象付けるため、祈愛はあえてそれ以上アントーニョの方には踏み込まず、
「じゃ、アントーニョが同性同士なら問題ないって天使ちゃんとじゃれあってるなら、私は同性のエリザにアタックしようかしら」
と、応じて余裕を見せる。
それに対してアントーニョは
「ライバルはローデとフライパンやな」
と、ハハッと笑った。
掴みは上々である。
とりあえず相手役の子に自分とアントーニョの仲をさりげなく認識させて近寄りやすくする事が今回の目的なので、あまりしつこく長居はしない。
「じゃ、あたしも仕事だからっ。またねっ。
天使ちゃんも一緒に今度はお茶でも出来るといいわね。」
と、ひらひらと手を振ると、自分の名を呼ばれたことで、アントーニョの陰から少年がひょこっと顔を出す。
それににっこりと笑って見せてやると、ぺこりとお辞儀をしてきた。
ここでいったん退場する。
これで余裕のある大人の良い女を印象付けられたはずだ。
次は相手役の少年と親しくなることだ。
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