「最初に言うといたやん?
特別扱いはできひんって。
ヒロインとして扱わなあかん間は出来る限りそういう扱いはしたるけど、仕事やろ?
周りが望むように演じて夢見せる仕事しとって、なんでそんな理性ないねん。
プロ意識ない奴と今後仕事はできひんわ」
と、動揺する事もなく言い放って背を向けて去るまでを、祈愛は影からこっそり見物していた。
馬鹿な女だと思った。
アントーニョの気持ちはドラマが終わったらもう次のドラマに向かっているため、終わったはずの過去にグダグダ縋られて揉めれば気持ちが冷めていくのは目に見えている。
それならもう一度共演する機会を作ってもらって、その目が自分に向いている期間にアピールをすればいいのだ。
その機会をあの女優は愚かな感情的な行動で永遠に潰してしまったのだ。
当時祈愛はまだアントーニョとほとんど接触を持つ事などなかった時期だったが、なんとなくその女の愚かさを愉快に思った。
自分ならあんな風に愚かな行動には出ない。
そうやって上手に立ち回って振り向かせてみせる。
今こそその時だ…と、祈愛は当時を思い出して思った。
適度につながりを維持しながら、機会があれば一緒に仕事を出来るように話を持っていくようにすればいい。
それにはしつこくしない事。
感情的にならない事。
幸い今回の相手役は少年だ。
いつものように恋人のような扱いにはならないだろう。
それならその相手役の子とも仲良くやっていけば話はより早くなるかもしれない。
まだ芸能界に入りたての少年なら、自分のように有名な美人女優が優しくしてやるだけで有頂天になるだろうし、弟のように可愛がってやっているふりをすれば、共演中は相手役を優先するアントーニョの事だ。
そんな大事な相手役が好意を持つ相手になら好意的に接してくるだろう。
元々知らない仲でもないわけだし、うまくすれば次のドラマの話が持ち上がった時に意欲を見せたら共演者としてプッシュしてくれるかもしれない。
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