今回のドラマはもう無理だろうが、そのうちほとぼりが冷めたら、プライベートではアントーニョが連絡をしてきてくれるだろう。
自分はこういう時に泣いて騒ぎ立てるような余裕のないみっともない女じゃない。
フフン、と、祈愛は以前みかけた事のある、過去のアントーニョの共演者の女の姿を思い出した。
毎回毎回、連続ドラマの仕事になると、アントーニョは相手役の女優と噂になるが、実際にその間はプライベートも親しくなるらしい。
一緒にいる時は本当にマメで気が利いて明るくて優しくてしかも男らしく頼もしい。
ドラマと同様、まるで相手に恋をしているかのように、公の場でも普通に色々してくれて、
『親分の大事なヒロインやで?これくらいすんの当たり前やん』
と、公言してくれるので、相手役の女性が有頂天になるのは仕方ないだろう。
それなのに、そのドラマが終わると態度が一変する。
別に悪意をぶつけられたり無視されたりと、マイナスの方向にまでふっきれるわけではないが、会っても普通にそのあたりのスタッフや同僚にするように挨拶され、まるでドラマの撮影期間の間の密接な関係などなかったかのようにふるまわれる。
実際彼の頭の中ではそうなのかもしれない。
連続ドラマが終わって次の新しい連続ドラマの撮影が近い時などは、たった数日で、元のヒロインは一般の知人になり、新ヒロインがまるで運命の恋人のように扱われるなんて事もざらだ。
良くも悪くも感情的なアントーニョは、おそらく計算するタイプではない。
だから役柄としてのテンションをあげるため、普段からその役になりきっているのだろう。
が、皆も…ヒロイン役の女優達もそうなわけではない。
これではアントーニョは割り切れていても女達は割り切れるわけがない。
もちろんマスコミや一般人の前で揉める事はないが、人目がつかない所で揉める事もしばしばある。
何度かあったであろうそんな現場を祈愛は一度だけ偶然目撃したことがあった。
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