ヒロイン絶賛傷心中1

浅葱祈愛は不機嫌だった。

ほぼ確定とされていた『黒い楽園』のヒロイン役を突然下ろされたのだ。




グラビアアイドルから女優に転身。

今をときめくトップアイドルであるアントーニョ・ヘルナンデス・カリエドとの共演という快挙のはずだったのに…。



アントーニョとは2時間ドラマで一度だけ共演した事があった。

元々ドラマに出演するたび相手役の女優と噂になるような恋多き男だと言う事は知っていたし、

『あのな、親分一応アイドルやし?特別な扱いはできひんよ?』

と最初に言われたが、そんなことはかまいやしない。



あれだけ良い男なのだ。

遊びでも構わないし、男性ファンを魅了する我儘ボディと言われた自分に多少なりとも自信があった祈愛は、そうは言っても運が良ければ特別に思われる事もあるかもしれない…くらいにすら思っていた。



共演した初日にもうメルアドを交換。

翌日にはこっそり誘って会ってホテルへ行った。

明るくて楽しくてあっという間に夢中になった。



そんな時に偶然なのかアントーニョのプッシュがあったのか、内々にドラマの共演の話が持ち上がったのである。

祈愛が舞い上がっても仕方あるまい。



『トーニョ、これから数カ月よろしくね』

と腕を絡ませて言えば、アントーニョは

『はしゃぎすぎてバレへんようにな。』

と苦笑したが、彼だって内心喜んでいたのだと祈愛は思っている。



しかし蓋を開けてみたら、いきなり件のドラマのヒロイン役は公募になっていた。

それでも祈愛は信じられず、公募と言いつつこっそり裏で自分に決まってるとかなんだろうか…と、相手役の子が発表される瞬間まで思っていたが、公募の1カ月後にはオーディションが行われてヒロイン役に別の子が決まって発表され、しかもアントーニョ自身のかなり強引なプッシュで…と、聞いて、祈愛はテレビに雑誌を投げつけた。



ヒロインの座を失って、さらに自分を含めて誰に対しても執着しないアントーニョが執着する相手が現れた…と二重のショックに、その日は食事も喉を通らなかった。



しかし翌日目が覚めて、ふと思う。

急遽決まったヒロインの公募とアントーニョが決めたというヒロイン。

しかも可愛らしいとは言え少年だった。



これはもしかして常々自分と密着しすぎだと批判を受けていたため事務所が仕組んだのではないだろうか。

噂になっている自分から少し距離を置かせ、相手役にファンから嫉妬されないようにと少年を据えて可愛がっているように見せかければ、噂もじきにおさまる。



そうだ。そういう事ならわかる。

事務所の方針ならアントーニョも従わざるを得ないじゃないか。





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